20 - 罪人録2
グウィンの空棺を前に、グウィンドリンとベルカが向かい合って座っている。ようやく泣き止んだグウィンドリンは赤くなった目でベルカの質問に答え始めた。
「そもそもなんでこんな殺風景なところにいるの?」
「それは…恥ずかしいので…」
「なにが」
「…人前に出るのが」
『かわいい!グウィンドリン様ちょーカワイイです!!!!』
「ちょっと待って」
隠れ聞いていた騎士の元まですたすたと戻るベルカ。
「心の声が邪魔して会話が進まないんですけど」
「何のことかわかりませんが」
「ドリンちゃんのことを思うなら心の声も我慢してほしい」
「何も言ってませんけど?」
「スマホで撮るのもやめい」
「お断りします」
「後でドリンちゃん直筆の手紙あげるから」
「…」
「見て。こんなくだらないやり取りで300字も使っちゃったよ」
「私はグウィンドリン様を支えて差し上げたいのです」
「本当にそう思うならお願いだから二人きりにして。ドリンちゃんほんとに困って助けを求めてるみたいだから。心の声はコマの外でぶちまけて」
「私も助けになりたいです。いや、むしろ助けにならないこの無力さが実らぬ思いを増幅し」
「待った待った。…よし、わかった」
* * *
「現在、王家を取り巻く困難は大きくわけて3つあります。1。都市国家カリムの成長。2。小ロンドの謀反。3。ウーラシールの崩壊。いずれも今は王家を傾けるほどの脅威ではありませんが、芽は小さいうちに摘むのが上策といえましょう。それからグウィンドリン様の個人的なお悩みがございます」
「奇跡がうまく使えないのです。それからお父様が公爵の書庫を封印してしまって本が読めず…」
さすがグウィンドリンお付きの騎士だった。同席させると、優秀な秘書のようにテキパキと仕事をこなす。
「じゃあひとつずつ聞いていくね。カリムは何が問題なの?」
「カリムは我らの説く白教の教義に従わぬ者や、ダークサインが現れ追放された者たちを集め、ベルカと呼ばれる悪神を旗頭に急成長しています。そのコネクションを着実に広げ、ロードランのみならずあらゆる地域へ情報網を張りめぐらし、油断できません」
「ベルカってどんな神なの?」
「あらゆる秘儀に精通し、神々のなかでも強い影響力をもつと言われています。ですが、大王が古竜を討伐した時代には確認されていないので、おそらくはカリムの指導者アルスター伯が自国の影響力を強めるために、反・白教の象徴として作り上げた偶像でしょう」
「…」ベルカが思わず苦笑いする。
「どうしました?」
「なんでもない。小ロンドについては?どこにあるのかも知らないんだけど」
「小ロンドは輪の都とは別にロードランに作られた小人の街です。ロードランに巡礼しに来た者たちの居場所として王が許したものの、大恩を忘れ邪教に心を売り、堕落しました。王がいなくなったのをいいことに独立し、周囲に略奪のかぎりを尽くしています」
「へー。じゃあウーラシールは?」
「カラミットと呼ばれる黒竜の脅威に対抗すべく、禁忌に手を出して滅んだようです。それだけならば問題ないのですが、禁忌の元から深淵が広がりつつあるとかで」
「おっけー。じゃあドリンちゃん」
「基本的な奇跡さえ扱えないのです…。お父様が扱う雷は仕方ないにしても、『回復』さえ唱えられないのは、私、お父様の娘として失格なんじゃないのかと…」
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