04 - アノール・ロンド1
「では新たな術を求めて訪れたイザリスで火に飲まれたと」
「そういうこと」
地上へ向かう人力エレベーター。勤勉な犬が滑車を回し、板をきしませながらゆらゆらと上がっている。
ユルヴァを癒やしたベルカはおだてられ、調子に乗って嘘八百をベラベラとしゃべっていた。古今東西あらゆる秘儀に精通し、神々のなかでも強い影響力を持った女神。
エレベーターを先に降りたユルヴァはベルカの手を引き、笑顔で言った。
「ベルカ様。私を絶望から救ってくれたのはベルカ様です。この出会いを与えてくださったロイドに感謝します」
「ロイド?」続いて降りたベルカが聞く。
「はい。私、昔カリムで修道女をしていたんです」
「カリム…」
「あ」ユルヴァがクスッと笑う。「おかしいですよね。カリムの人間が今でもロイドを信仰しているなんて。でも悪い人ばかりじゃないんですよ。伯爵様は、あまり評判良くないです、けど…」
「そう…ふーん…」
「ふふ。すみませんこちらの話ばかりして」
勝手に一人で盛り上がるユルヴァ。ベルカは何を言っているのかわからなかった。生まれてからほとんどの間イザリスで過ごしていたからだ。ネットのない世界で何が起きているのかわかるはずもない。
「あ、お迎えみたいですよ」
ユルヴァが指差した。明るく開けた出口に、鈍く光る銀鎧を着込んだ騎士が何人も立っている。当然呼んでなどいない。二人に気づいたのか、一人の騎士がガシャガシャと足を鳴らして近づいてきた。ベルカはススス、とユルヴァの後ろに隠れる。
「混沌の娘だな?」騎士がユルヴァの肩越しにベルカに言った。
「違います」
「よし。連れて行け」
有無を言わさず騎士はベルカをのみぞおちに一撃を加え、ぐったりした身体を肩にかついだ。天界のエスコートは豪快だなとユルヴァは思った。
再びガシャガシャと足を鳴らして離れていく騎士と気絶したベルカ。ユルヴァは小さくなっていくそれに向かって大声で叫んだ。
「ベルカ様ー!わたしー!カリムをー!変えてみせますー!すてきな国にー!千年たってもー!ベルカ様が忘れない国にー!変えてみせまーす!!」
はぁ、はぁ、と息をしながら、ユルヴァは杖を握る。毒や血腫、身体の不調をソウルで中和する神の御業。ベルカから教わったこの術をカリムに持ち帰り、荒んだ故郷を変えてみせる。そう赤衣の女は決意した。
* * *
大王グウィンの居城アノール・ロンドは、ロードランで最も高い山、その頂上に作られた城塞だった。王を称える町並みは、磨かれた白石の塔がどこまでも立ち並び、神の威光が地の果てまで照らすことを象徴している。
夕日はぶち壊したいほど美しく、大路を進む騎士とベルカに長い影を作っていた。はだしの足に白い床はほんのりと温かく、それでいてひんやりとして、むずむずした。
「トイレ行きたい」
「神は排泄などしない」
「アイドルかよ」
「そんな醜い行為をするのは人間だけだ。そうだろう?」
「ママに会いに来てた神様は最近尿のキレが悪いって愚痴ってたよ」
「誰だその下品なやつは」
「いつも酔っ払って大声で笑ってるオヤジ」
「あー…」騎士が立ち止まり頭を抱える。「マクロイフ親父か…」
「でしょ?おしっこするでしょ?」
「あいつは…あいつは例外でな…」
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