王の誕生
「キングススタンド! このキングにふさわしい名前のレースだわ!!」
「そうか。それは良かった」
ここはイギリスのアスコット競馬場。
俺はコースの上に腹ばいになるとゆっくりと前進し始める。
「ちょっと!何やってるのよ!!」
コースの上で匍匐前進する俺をキングヘイローが叱る。
「恥ずかしいわね!」
「いや芝の形状と土質を確かめていた・・・わかっていたが難しいコースだな」
低温と降雨の多い場所なら芝が違うのはわかっていたが。
イギリスはワックスされた砂と化学合成物質の混合物をコースの素材とする。
「芝の長さも若干長め、地下茎の密度が濃くてクッション性の高い柔らかい馬場だ」
パワーを使うことになる分キングヘイローが有利か。日本よりは重い芝質だ。
日本の馬場は世界屈指の高速馬場なので真逆の海外に出れば多くのウマ娘は戸惑うだろう。
「考え込んでどうしたの?」
「芝の反発力が明らかに違う。靴も変えるか・・・今回は底の蹄鉄を変えて
インソールも変えるか。接地時の衝撃吸収性を変えよう」
俺は説明をしながらコースの芝を踏みしめる。
「芝やコース状況も違うからな。軽く走って慣れておきたい」
「今までと何か違うの?」
「だいぶ柔らかい。いや柔らかすぎるかもしれない馬場だ芝の塊が飛びやすい。」
「靴を調節するって・・・できるの?」
「やるしかないだろう。レースまで時間もないし。練習で違和感があったらすぐに言ってくれ」
アオ君は金属加工できるから頼らせてもらおう。
靴もいずれは専用のものを開発したい。
「まあアンタに任せてるからそこらへんはよろしく頼むわ・・・」
日本は硬い馬場がイギリスでは逆に柔らかくなる。
コースは起伏が激しい場合上に芝も日本以上にうねっている。
パワーのあるキングにとっては逆に強みになるだろうけれど・・・
――キングズスタンドステークス 芝 1006m (G1)
俺の予想では鼻差でキングヘイローが勝つだろう。もっとも絶好調と言える体調ならという但し書きが付く。
ひどい賭けだ。地球の裏側まで引っ張り出して期待させて綱渡りをキングにさせようとしている。
相手の子達は万全の仕上がりだ。それはそうだろう。なんといっても歴史あるレースなのだから。
出場してくるウマ娘はみな優秀だ
「心配ですか?」
カワカミプリンセスが俺に訪ねてくる
「・・・心配というより怖い。できることなら今すぐここから逃げ出したい」
キングが傷つくのが怖い。みんなの残念な顔を見るのが怖い。
・・・みんなとの、キングヘイローとの日々が終わるのが怖い。
「大丈夫ですよ!」
「名前からしてもここはキングさんの故郷です!必ず勝ちます!」
カワカミプリンセスたちの元気な言葉は俺の不安を吹き飛ばす
「そうだな。ここまで来たら俺たちはキングの応援をするだけだ」
俺はレース場を見渡す。そよ風が吹いている。風向きは良い方向だ。
「・・・ここは昔はクイーンズスタンドプレートと呼ばれていた。それが女王の死と王の即位でキングズスタンドステークスという名前になった」
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