10話 緋の魔王
人がいなくなった大市に一台の飛行艇が着陸する。
「どうやらあの平民は思いの外使えたようだな」
その光景を別の飛行艇で見ていた軍人は一番の目的が順調に達成されていることに安堵の息を吐く。
今回の処刑が知れ渡るとほぼ同時に領邦軍に詰め所に単身で乗り込み、捨石になっても構わないと言い切った少年の勇気と漢気は口に出さないが領邦軍は高く評価する。
「しかし隊長。やり過ぎではないでしょうか?」
「作戦の概要は既に説明したはずだ……
奴等は既に護るべき無力な市民ではない、自分の立場を弁えず貴族の処刑を画策し、あまつさえバリアハート襲撃を企てる反逆者に過ぎん」
「それは分かっています……ですが……」
操縦桿を握り締めながら操縦士は逃げ惑う市民だった者達を見下ろす。
第四機甲師団に煽られたとは言え、ケルディックの住民が超えてはいけない一線を超えてしまった。
クロイツェン州の枠を超え、ログナー家とハイアームズ家まで敵に回してしまった以上、クロイツェン州を治めるアルバレア家にはケルディックを潰す以外に選択肢はなくなってしまった。
「お前達が悪いんだ。お前達が悪いんだ……」
下に向けて機関砲を掃射している砲撃士が繰り返す呟きに操舵士は唇を噛む。
そう言い聞かせなければいけない程の煉獄に良心が痛まないわけではない。
「せめて処刑なんて言い出さなければ……」
思わず呟いてしまうが、幸い上官の耳には入らなかったのか、咎められることはなかった。
このままクロイツェン州領邦軍が彼らの処刑を見過ごせば、革新派を打倒した未来でログナー家とハイアームズ家を代表として犠牲になった家から責任追及をされるだろう。
四大名門から降ろされることはなかったとしても、その中での発言力は著しく低下することになる。
逆に捕まった貴族子女達を無事に救出できたなら、ログナー家とハイアームズ家に大きな恩を売ることができる。
それこそ、貴族連合軍主宰の立場をカイエン公爵から奪うことも夢ではない。
「クロイツェン州が帝国のトップになるか……悪くないな」
間接的とは言え自分達が一番になることに悪い気はしない。
ケルディックを焼くデメリットは大きいものの、それをするだけのメリットは存在していた。
「私たちの正当性は助けた子供たちが証明してくれるだろう」
直前にどちらの陣営にとっても想定外のことが起きたが、それで革新派が処刑を中止すると宣言したわけではない。
大勢に取り囲まれ理不尽な憎悪を向けられた子供達の心の傷がどれほどのものか想像もできない。
「入電――捕らえられていた貴族の子女たちは全員救出できたようです……ですが――」
「どうした?」
「第一優先保護対象のアンゼリカ・ログナー嬢が手枷を外せと抵抗しているようですが……」
「ログナー侯からの許可は得ている。そのままで構わん。抵抗が激しいようならスタンロッドの使って気絶させておけ」
何故、救出対象に猛獣のような対処が許可されているのか通信士は首を傾げつつ、通信士はその胸を相手に伝える。
そして隊長はおほんと咳払いをして、部下たちに言う。
「我が艇は救助艇の浮上に伴い、護衛からケルディック制圧に任務を変更する!
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