7話 これから……
「悪いな皇子様。スポンサーがその《器》を望みでな。お前だけは逃がすわけにはいかないんだよ」
持ち前の飛翔能力で追い縋って無防備な背中を斬りつけ墜落させた《緋》を見下ろして《蒼》は勝ち誇る。
彼の仲間達が決死の覚悟で《緋》を逃がす防波堤となろうとしたが所詮は地を這い回るしかできない生身の人間。
帝都で鉄道憲兵隊を置き去りにしたように空を飛べばそこは《蒼》の独壇場。
Ⅶ組の覚悟を嘲笑い、唯一抵抗できる可能性があった《青》の機神は仲間たちが抑えてくれている。
「…………はっ、やっぱり大したことねえじゃねえか」
沈黙する《緋》の手応えのなさにクロウは失笑する。
《魔王》などと呼ばれていても、所詮は温室育ちの皇子を起動者にした騎神。
起動者の差や《蒼》の新たな力を考慮しても、帝都で《緋》を討ち取ることは容易だっただろうとクロウは考える。
「ま、とにかくそれはお前には過ぎた代物だ。回収させてもらうぜ」
カイエン公の望みを果たすべく、《蒼》は《緋》に手を伸ばす。
「あら、それは契約違反じゃないかしら?」
その手を蒼い魔法陣が壁となって阻んだ。
いつからそこにいたのか、蒼いドレスを纏った美女が《緋》の向こうに立っていた。
「ヴィータ……裏切り者が今更何の用だ?」
苛立ちを露わにしてクロウはその姿を騎神越しに睨みつける。
「裏切り者とは随分な言い方ね?
私はあくまでも貴方達の協力者に過ぎない。私の目的のために手を貸して上げていただけで私と貴方達の関係はあくまで契約を前提にした関係だったはずじゃなかったかしら?」
「はっ……《幻焔計画》とやらから外されたくせに偉そうにしてんじゃねえよ」
クロウの見下した声音にヴィータは沈黙を返す。
「別に契約を破るつもりはねえぜ。煌魔城とやらの中で騎神と戦う、それまでは好きにさせてもらうだけの話だ」
「好き勝手されたらその煌魔城を現出させる条件が満たせなくなるかもしれないのだけど?」
「そんなもん俺の知ったことじゃねえ」
取り付く島もないクロウにヴィータは肩を竦める。
「とにかくそいつをカイエン公が御所望でな。邪魔するって言うならお前でも容赦しないぜ」
今なら導き手のよしみとして見逃してやるとクロウは通告する。
「随分と生意気になったものね。三年前はもっと可愛げがあったのに」
悪い方向に成長してしまった起動者をヴィータは嘆く。
「うるせぇ……とにかく邪魔をするな。だいたいお前如きに何ができるって言うんだ?」
上からの見下す言葉にヴィータは深々とため息を吐き――
「クロウ、少し頭を冷やしなさい」
蒼の杖を地面を叩く。
それを合図に無数の蒼の魔法陣が《蒼》を取り囲んだ。
「なっ!?」
「魔女が何故、騎神の導き手と呼ばれていたのか分かるかしら?」
膨大な霊力の奔流に目を剥くクロウにヴィータは語り掛ける。
「それはね……悪しき者が起動者に選定された時、それを止める力があるということなのよ」
取り囲んだ魔法陣は《蒼》の動きをその場に抑え込む束縛と共に、その頭上にさらに巨大な魔法陣に囲まれた蒼い月を生み出す。
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