俊樹とホーランドに栄光あれ
キルヒアイスは三度目になる体験だったので落ち着いて起き上がった。その身体は17歳の三葉のものになっている。
「制服がない……私服? 今日は日曜日か」
三葉の制服はクリーニングに出されていて部屋に無く、私服がセットになって置いてあったので目を閉じて着替えた。
「三葉さんの予定は……」
置いてあった手紙を読んだけれど、とくに予定はない様子で身体に触れないでほしいことが繰り返し書かれているだけだった。
「三葉さんの方は予定なしか。………けれど、ラインハルト様の方は、おそらく今日にもティアマト星域で同盟軍と交戦状態に……このタイミングとは。………艦隊戦そのものはラインハルト様なら問題ないとしても、ノルデン少将との関係も……。心配しても何もできない。今は忘れて、三葉さんとして行動しよう」
窓から空を見上げたけれど、ラインハルトがいるのは遠い銀河のイゼルローン回廊の向こう、しかも時代さえ違う。何もできないと悟り、気持ちを切り替えて女性らしい振る舞いを心がける。しとやかに髪を整え、一階におりて顔も洗った。
「おはようございます」
「あら、おはよう、ジークさん」
一葉の家事を手伝い、ゆっくり寝ていた四葉が起きてくると朝食をともにして、平日にはできない家事や神社の掃除を手伝って昼食が終わってから、一葉に問う。
「町の中を散歩してみたいのですが、よろしいでしょうか?」
「ええよ。手伝ってくれておおきにね。これ、ジークさんに」
一葉が3000円を渡そうとしてくる。
「いえ、このようなお気遣いまでいただかなくても…」
「もらっておいて。使うところなんてコンビニと自販機くらいしか無いけんど、三葉の財布とは分けて持っていれば、ちょっとしたことに気兼ねのう使えるでしょう?」
「それは……たしかに…。ありがとうございます」
まったく通貨を持たずに行動するのは不便かもしれないと受け取り、前回に克彦へ缶ジュースを買った分を三葉の財布に補給してから、ポケットに入れた。家を出て町を見て回る。
「キレイな町だ。ここが……この地球が…」
隕石落下と核戦争のことを思い出しそうになって頭を振った。
「忘れよう。ティアマト彗星のこともティアマト星域のことも。おっと、いけない」
つい男言葉になっているのを自覚し、アンネローゼのことを思い浮かべ、しっかりと真似をする。
「どこへ行きましょう。学校ではない方向がいいかしら」
女性らしい足取りで歩き、すれ違う町の人にも挨拶しながら散歩していると、気になる車が通りかかった。
「今日は糸守町町長選挙の日です! みなさん、投票に行きましょう!」
町の広報車が早耶香の姉の声を響かせて周回している。
「投票………」
とても興味が湧く。
「あれが投票所……」
歩いていると、すぐに投票所と書かれた看板が公民館に置いてあり、中に入ってみたいと思いつつも迷っていると、外でタバコを吸っていた町職員に声をかけられた。
「三葉ちゃん、どないしたん?」
親しげな声のかけられかたなので、向こうは三葉の顔を知っているようだった。
「はい、その……もし、よろしければ投票所の中を見学させていただけないかと思いまして」
「ああ、なるほど。いよいよ興味が湧いてきたんか。ええこっちゃ。ほな、案内するわ」
気さくに職員が案内してくれ、中に入ると投票箱や入場整理券の受付があり、立会人もいて、みんな三葉の顔を知っているようで歓迎してくれる。
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