ハーメルン
「君の名は。キルヒアイス」歴史の真実と芯の世界
デート、ロイエンロール、女の身

 
 キルヒアイスは三葉の身体で起き上がると、すぐに読めとばかりに枕元へ置いてあった手紙を開いた。
「……三葉さんを……とても怒らせて……」
 手紙は、かなり感情が滲む字で書いてあった。
 
 キルヒアイスへ
 あなたのしたことについて、私はとても怒っています。
 私たちと父の関係はとても複雑なんです。
 勝手なことをしないでください。
 学校でも家の周りでも、普通の高校生らしく過ごしてください。
 繰り返す!
 私はとても怒っている!
 以上!
 追伸、あなた宛にラブレターが来ています。私の生活を乱さないよう、丁寧な返事の手紙を書いて、断っておいてください。私は町のアイドルでも町長の娘でもなく、ごく庶民として生きたいんです! 目立つことは絶対にしないで! もちろん、身体にも触らないで! 以上!
 
 きわめて感情的で追伸の方が長いくらいだった。
「………お父様とのご関係………」
 すでに、この身体に入ったときは女性らしく振る舞うということが板に付いてきたので手紙を読み終わると、申し訳なくて祈るような形に手を組み、許しを請う。
「お許しください。三葉さん、私の配慮が足りませんでした」
 自分と父親の関係なら、何ら問題がないような行動でも、もしもラインハルトが誰かと入れ替わるようなことがあって、その誰かが父親と仲良くしていたりしたら、戻ったときラインハルトが、どれほど激怒するかは想像するのが怖いほどで、それぞれの家庭にはそれぞれの事情があるのだと思い知り、三葉の怒気で乱れた字を見ると、日本式の土下座をしたいほどだった。
「………三葉さん、……本当に、ごめんなさい」
 立ち上がって鏡を見ると三葉の顔に、バカ、圧政ボケ、と大きく油性ペンで書いてあった。
「…………ご自分の、お顔なのに……それほどにお怒りになって……」
 このまま登校すると、それはそれで三葉の名誉を損ねることになりそうなので急いで着替えて顔を洗う。油性ペンなので、なかなか落ちなかった。やっと、三葉の顔が元に戻った頃、四葉が起きてきた。
「おはよう、お兄さん。っていうか、もうお姉様の方がいいかな」
 姉の身体は本人以上に女性らしく髪を結っている。四葉が挨拶すると、上品に微笑みかけてくれた。
「おはようございます、四葉」
「顔、かなり赤いよ」
 擦ったので三葉の顔が赤くなっている。
「私は三葉さんを、とても怒らせてしまったようです。どのようなご様子でしたか?」
「激ギレで喚いてたよ。ギャーギャー! って山びこ響くくらいに」
「………どうすれば、良いでしょう?」
 三葉の眉が上品でありながら物憂げに顰められる。悩んだ顔であっても気品があった。わずかに涙まで滲ませている。
「少しでも、お怒りのとける行動を心がけたいのですが、どうしてよいか…、まったく、わからないのです」
「う~ん……とりあえず、お父さんには、あんまり関わらない方がいいよ。あとは普通に授業を受けて普通に帰ってくればいいんじゃないかな」
「そうですか……そのように心がけます」
 申し訳なくて涙を滲ませたまま登校する。早耶香と克彦が声をかけてきた。
「おはよう、三葉ちゃん」
「おはよう、三葉。どうした? 泣きそうな顔して?」
「いえ、何でもありません。ご心配、ありがとう、テッシー」
 ハンカチで楚々たる仕草で三葉の目元を拭く。それを見て克彦は男として強い保護欲を覚えた。守りたい、そう強く感じる。そんな女ぶりだった。

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