ハーメルン
「君の名は。キルヒアイス」歴史の真実と芯の世界
告白、ルビンスカヤとルビンスキー、三竦み


 キルヒアイスは三葉の部屋で目を覚ますと、回数を数えて日付を見ていた。
「これで22回目………」
 三葉と入れ替わること、すでに22回となっている。
「三葉さんの時間では4月から6月に、けれど私の時間では486年の2月から11月まで進んで……私が三葉さんになるのは、三葉さんの時間で、およそ週に3、4回。けれど、私の時間では不定期ではあるけれど週に1回程度……もしも、このままのペースなら彗星落下の頃には、私の時間では489年中頃に……」
 入れ替わる日のペースが二人のいるそれぞれの時間で違うことには、ずいぶん前から気づいていたけれど、その記録から逆算して彗星落下まで入れ替わりが続くと仮定すると、帝国暦では489年までになりそうだった。
「この現象は三葉さんたちを救えという神の意志なのでしょうか………いえ、神のような非科学的なものが……もっと、よく知り、もっと、よく考えましょう……。けれど、もしも、彗星落下で三葉さんが亡くなるとすれば、私は彼女の残り少ない人生の半分を無為に奪っているということに…」
 胸に痛みを覚えつつ、三葉としての日常を女性らしく過ごすために枕元にあった手紙を読む。
「テッシーとカフェに………写真とお土産…」
 手紙には今日の予定として、克彦と電車で移動して地方都市にあるカフェに行くこと、もしも自分が行けずに入れ替わりが起こってキルヒアイスが行くなら、カフェの料理をスマフォで写真に撮っておくこと、テイクアウトのお土産を多めに買って帰ることが書かれていた。
「サヤチンは……」
 たいてい3人いっしょに行動するのに、早耶香のことが触れられていないのでスマフォでメッセージ履歴をチェックした。克彦とのやり取りが見つかる。
 
 明日、念願のカフェに行かんか? 割引券もらったし。
 行く行く!
 じゃあ、9時に駅に集合な。
 サヤチンは?
 あいつは家族で富山にマス寿司を食べに行くって言っておったやろ。
 ああ、そういえば、そんなこと言ってたかも。サヤチンが行けないなら来週は?
 割引券の期限が来るから。
 そっか。どうしようかな。
 割引券がある分、おごってやってもいいぞ。
 行く!
 じゃあ、決まりだな。
 
 やり取りを見ると、昨夜になって急に決まったことなのだとわかった。
「………これは……デート……どんな服で行けば……」
 着替えは用意されていなかった。もうお互い軍服や制服だと、用意しなくてもわかるし、普段着も三葉のショーツが入っているタンス以外は中身を把握している。
「明らかにデートなのですから、テッシーに失礼のない服装でないと……」
 いつもの日曜日に着ているような平服で行くわけにはいかないと思い、タンスを探って少し胸がきついけれど、三葉が中学生の頃に女性らしさへ憧れて買った白いワンピースを選んだ。
「もう、こんな時間に…」
 服を選んで、いつもより身なりを整えることに気遣っていると、約束の時間が迫り、朝食もそこそこに駅へ急いだ。到着すると、すでに克彦が待っていた。
「おはようございます。お待たせいたしました」
「………。そ、そんな女らしい服……もってたんや……」
 初夏らしい肩と胸元を露出したワンピースは17歳の三葉の健康的な美しさを外面からも内面からも輝かせていたし、白いワンピースに合う靴が無くて玄関で困っていたところ、一葉が二葉が使っていたヒールのある白サンダルを出してくれたので、いつも学校で見る三葉とは別人のように可愛らしく見えて、克彦は気温以上に暑く感じた。

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