加速するパス
身体中を汗がつたう。体は火照って、熱くなっていた。心臓の鼓動が妙に大きく聞こえ、小さく息を吸って呼吸を整える。足は鉛のように重くなり、視界もぼやけている。
熱気に包まれた会場で、僕は虚空を見つめて呆然としていた。静かに下を向き、さっきの言葉を反芻する。
『お前のバスケじゃ、勝てねえよ』
その言葉は心に深く突き刺さったまま、自分の手足を縛っていた。自分のパスは悉く阻まれ、全く機能しない。機能したとしても、圧倒的な力の前に点差は広がっていくばかりだろう。
火神君は完治していなかった足を酷使し、途中で交代した。もはや光はいない、勝ちは絶望的だ。
けど……、それでも──!
「はあ、期待外れだったな」
そんな言葉が耳をつんざく。見ると、コートの中央で金崎くんと青峰君が向かい合っていた。本来なら到底聞こえないような距離と声の大きさ、なのにも関わらず、その言葉はスッと耳に入って来た。
「お前はパッとしない顔のくせに、中々やるなと期待してたんだが……
光と影、両方になったつもりか? 結局お前のバスケはただの真似事だよ」
心のどこかが波立つ。
「お前がやってる事は自分自身の光をぼやけさせてるだけだろ」
心の中の何かが否定される。
「そんなもん、圧倒的な力にねじ伏せられるだけだ」
心に目を背けていた現実が突きつけられる。
「……俺に勝てるのは、俺だけだ」
心が、折れそうになる。
そう言って青峰君は、金崎君の横を通り過ぎて自身のゴールへと向かう。僕に背を向けて立っていた青峰君の表情は見えない。
思わず体から力が抜ける。立っていられないほどの脱力感に襲われた。思わず、意識が飛んでしまいそうになる程だ。
しかし、その意識はある事によって引き戻される。
金崎君が怒りがこもった目でしっかりと僕を見つめていた。その目は何かを伝えようとしているように見える。
普段は試合中にほとんど感情を見せない金崎君が、ここまで感情を露わにするのは初めてだった。
金崎君は一切諦めた様子はなく、ただ自分の目の前で言われたことを純粋に怒っていた。
金崎君は──仲間は、まだ諦めていない。
……まだだ、まだ諦めない。
けれど、もうミスディレクションも切れかけている。この状況で青峰君に通じる手立ては……
いや、ある。
現状火神君にしか取れないパス、加速するパス
本来なら金崎君に取れるとは到底思えない。だが、この場面で出来る出来ないではなく、やると覚悟を決めたのだろう。
おまけに金崎君はゾーン──極限の集中状態に入りかけているように思えた。
もしかしたら……という思いが募る。
どちらにせよ、これしか方法がない。やるしかない。
試合が再開する。早速、僕にボールが回って来た。ただの加速するパスならば、十中八九青峰君に防がれるだろう。けれど、火神君がいなくなってその可能性を考えてない今ならば……!
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/2
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク