ハーメルン
リィンカーネーションダービー ‐新人トレーナーがんばる‐
第11話:新人トレーナー、『ハルウララ』のトレーナーになる
ウララの3戦目、中山レース場で行われた未勝利戦の翌日。
俺はトレーナー用の共用スペースで椅子に腰をかけ、行儀が悪いと思いながらも両足を組んで椅子の背もたれをギィギィと鳴らしていた。
「…………」
俺は無言で両手に持った物体――新聞に目を落としながら眉を寄せる。
大手の新聞社が発行している競馬新聞ならぬウマ娘新聞というべき代物だったが、そこには昨日のレースに関する記事が載っていたのだ。
その記事では1着フューダルテニュアと2着デュオタリカー、そしてレースの中盤で脱落したカスタネットリズムについて取り上げられていた。
フューダルテニュアがゴール直後に減速できないまま転倒し、デュオタリカーを巻き込む形で地面を何度も跳ねながら転がり、ようやく動きを止めた。それによって二人は負傷し、ウイニングライブも取りやめになったのだ。
昨日ばかりはさすがのウララもレース後に笑顔がないほどの惨事だった。問題は、レース中盤で転倒したカスタネットリズムを含め、怪我どころかウマ娘としての選手生命を絶たれかねないほどの故障を起こしてしまったことだ。
今日は朝からトレセン学園に所属するトレーナーが会議室に集められ、自身が担当するウマ娘に関してこのような事故が起きないよう注意喚起が行われた。
フューダルテニュア達を担当していた各トレーナーは理事長に個別に呼び出され、事情聴取を受けてからなんらかの処分が下るらしい。
譴責処分程度の軽い罰で済むのか、トレーナーライセンスが剥奪されるような事態にまで発展するのか。共用スペースでは先ほどからその話題で持ち切りで、俺は自分の眉間にどんどんしわが寄っていくのを自覚する。
「どうぞ」
そうして俺が不機嫌さを周囲にばら撒いていると、桐生院さんがカップに注いだコーヒーを持ってきてくれた。
「……ああ、こりゃどうも」
「昨日は大変でしたね」
俺がコーヒーを受け取ると、桐生院さんが隣の椅子に座って話を振ってくる。俺は失礼だと思いながらも新聞から視線を外さないままで頷いた。
「レースの開始前から様子がおかしいとは思っていましたが、まさかあんなことになるとは思いませんでしたよ。ったく、先輩方は何を考えてたんだか……」
フューダルテニュア達の育成を担当していたトレーナー達は、俺よりもトレーナーとして先輩になるがお世辞にも評判が良いとは言えない人達だった。
人間よりも優れた身体能力を持つウマ娘だが、その走る速度の凄まじさから怪我をする子は珍しくない。転んで膝を擦り剥くなどの軽い怪我で済むウマ娘もいれば、走っている最中に骨折してしまうウマ娘もいる。
俺が育成を担当しているウララも、転んで擦り傷をこさえるのは割とよくあることだ。練習だけでなく日常生活でも転んで膝小僧に擦り傷を作るのは勘弁してほしいところである。そのため俺のポケットの中にはウララ用の可愛い絆創膏が常に入っているほどだ。
しかし、ウララが負ったことがあるのは擦り傷程度で、練習ができなくなるような重篤な怪我は一度たりとも負わせたことはない。練習をする際は常に準備運動をさせ、練習が終わった後は整理運動を徹底させて怪我の予防に努めた成果といえるだろう。
昨日の事故に関しては、最終直線で横並びになっていなければウララも巻き込まれていた可能性がある。
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