ハーメルン
アンタとはもう戦闘ってられんわ!
第2話(1)突然のムササビ

「だぁー! くそー!」

 隼子が叫びながら、ゴーグルを外す。黒くなったディスプレイには『YOU LOSE』の文字が浮かぶ。隣に座っていた大洋がゆっくりとゴーグルを外し、口を開く。

「もういいか? 大松さんに頼まれた仕事があるんだが……」

「もう一回! 負けっ放しじゃ終われん!」

「さっきからそう言って、もう十回はやっているぞ」

「ぐっ……この戦闘シミュレーションでウチはほとんど負けたことないのに……!」

「お取り込み中申し訳ないんだけど……」

 二人が声のした方に振り返ると、顎に不精髭を生やした丸眼鏡の中年男性が部屋の入口に立っていた。

「あ、小菅部長、お疲れ様です!」

「お疲れ、昨日の今日で戦闘シミュレーションとは精が出るね」

「いえ、これが仕事ですから! 部長はどうしてこちらに?」

「いや、こちらの疾風くんに用事があってね……、まだちゃんと挨拶はしていなかったよね? 初めまして、僕は総務部長の小菅和弘(こすげかずひろ)です」

「は、初めまして、疾風大洋です!」

 大洋は慌ててシミュレーション用のゲーミングチェアから立ち上がって、挨拶を返した。

「大洋に何か用事ですか?」

「今朝方、うちの部のものから社員用のタブレットが支給されたと思うんだけど?」

「ああ、はい。これですね」

 大洋は作業着の内ポケットから小型のタブレットを取り出した。小菅は頷いた。

「そっちにメールは届いてる?」

「えっと……はい。届いています……『中途入社手続きについて』?」

「うん。昨日のことも含めて、最近色々とバタバタしちゃってて、延び延びになっていたんだけどさ。個人情報等入力して、総務の方に返信しておいてくれないかな?」

「個人情報ですか……?」

 大洋が少し困った表情を浮かべる。隼子が代弁する。

「部長、大洋は記憶が……」

「ああ、それは聞いているよ、大変だね。だから憶えている範囲で構わないからさ、チャチャっと入力しちゃってよ」

「ええんですか?」

「まあ、採用はもう社長が決めちゃったからね。これ以上僕がどうこう言うことじゃないよ、こういうご時勢だし、うちみたいな地方の一中小企業には色んな経歴の人がいるから、あんまりあれこれと詮索するのもね……お互い面倒でしょ?」

「ま、まあ、会社がそういう考えなら、ウチも何も言えませんけど……」

 隼子も一応は納得した姿勢を見せた。

「エンジニアとして優秀だって聞いているし、何より昨日のパイロットとしての大活躍っぷり! こんな優秀な人材を逃す手は無いよ」

「……」

「ん? どうしたの? もしかして入社するつもりは無い感じかな?」

 小菅の質問に大洋は慌てて首を振って答える。

「い、いいえ。他に行くあても無いですし……こんな自分で良ければこちらの会社でお世話になります!」

「うん。じゃあ、入力して返信よろしくね、明日までで良いからさ、そんじゃ……」

「あ、あの!」

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