それぞれの想い
チームルームに入ってから、俺は5人のウマ娘に辞意を伝えた。
「えー!? トレーナー、トレーナーをやめちゃうのー!?」
「ちょっと、ウララさん!? さっきまで私たちその話題で話してたわよね?」
「でもでも! びっくりしちゃったー!」
やはりというかなんというか、おおよそのところは察してもらっていたらしい。
レースにおいてもコースを読み切る力としての賢さが求められるから、そのトレーニングがしっかりと身についている証だと、内心嬉しく思う。
「お兄さま、お兄さまはそれでいいの?」
「ああ。俺はお前たち5人の夢を叶えられたことで大満足だからな」
「えへへ、トレーナーちゃんのおかげで、マヤたちいーっぱいキラキラしたもんね」
「おかげさまで、全方位に隙のない完璧な委員長となりました!」
「ライスも、ライスもね。お兄さまと一緒に頑張ったから、夢を叶えられたんだよ」
「だな。今やウマ娘の結婚式じゃ、黒染めしたお米を投げるのが定番だもんな」
彼女たちがウマ娘界に与えた影響は大きい。
ライスの祝福米もそうだし、マヤは毎日キラキラを求めたウマ娘たちの併走に引っ張りだこ。委員長は名実ともに完璧委員長として愛されているし、母の7冠を越えたキングは今や一流のウマ娘の名を欲しいままにしている。
「ウララも、これから忙しくなるな」
「そうなの?」
「うん。ウララちゃんに会いたいって人、きっと、沢山来るよ」
「そうなんだー? ウッララ~、楽しみ~♪」
有マを制したダートの女王という新たな伝説も、きっとこの世界に少なからぬ影響を与えるだろう。
己の長所を伸ばす者、可能性を拡張する者、この先もきっと現れる。
彼女たちはそんな道を切り開いた先駆者で、俺はその手伝いが出来た幸運なトレーナーだ。
「トレーナーを辞めた後も、お前たち5人のサポートは可能な限りやるつもりだ。ただ、陣頭指揮を執ってああだこうだやる最前線からは身を引くつもりでいる」
「…………」
改めて辞める意思を示せば、騒いでいた5人のウマ娘たちが沈黙する。
少ししてその沈黙を破ったのは、キングヘイローだった。
「辞めたい意思は分かったわ。そしてそれを、私たちは止めるつもりもない」
彼女の言葉に、俺は他のウマ娘たちの顔を見る。
サクラバクシンオーも、ライスシャワーも、マヤノトップガンもみんな頷いていて。
唯一、状況を分かってなさそうだったハルウララも。
「トレーナー。これからもウララたちのこと、応援してくれる?」
「それはもちろん。俺にとってお前たちは、最高の推しウマたちだからな」
「~~~!! だったら、トレーナーはトレーナーのやりたいことをしていいって、ウララも思うかなぁ?」
「ありがとう」
彼女なりの納得をして、俺が俺の望む道を行くことを後押ししてくれた。
(話は済んだ、な)
そう、俺はここまでしか想定していなかった。ホッとしていた。
だから、続く彼女たちの言葉に、とっさにちゃんとした反応を返せなかった。
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