ハーメルン
ありふれない青年が世界最悪
終わり始まる物語





 月曜日。それは一週間の内で最も憂鬱な始まりの日。きっと大多数の人が、これからの一週間に溜息を吐き、前日までの天国を想ってしまう。

 そして、それは八雲京楽も例外ではなかった。学校は面倒だ。クラスの環境はあまり良くないし、少々居心地は悪い。別に理解者がいないわけではないが、居心地を悪くする者がいるのだ。京楽は欠伸をしながら学校に向かう。その隣では、気重そうに歩く南雲ハジメと南雲ユカリがいる。

 京楽とハジメは中学から友人で、ユカリはその妹だ。

「……ハジメ、ユカリ、寝不足か?」
「うん、父さんの仕事の手伝いが忙しくてあまり寝れなかったんだよね」
「そうだね~、ママの手伝いが忙しくって」
「はぁ。二人ともあまり無理はしない方がいい。体壊しちゃもともこもないだろう」
「あはは……確かに、そろそろ休んだ方がいいかな?」
「でも、頼まれたら断れないじゃん?」

 ハジメとユカリがそう苦笑い気味に京楽に返すと、京楽は溜息を吐いた。

「はぁ。……好きだからやってたいのはわかる。だが、それは出来る体があってこその話だ。ちゃんと休め。いや、今日は無理矢理にでも寝かせてやる。愁さんと菫さんには連絡してやるから安心しろ」
「大丈夫だから! ちゃんと寝るから! ね、ユカリ」
「うん。寝る! ちゃんと寝るから!」
「……言質取ったからな?」

 京楽はそう言ってボイスレコーダーを二人にフリフリと振って見せた。そして、再生ボタンを押すと、つい先程までの会話が流れ出す。

「でも、法的な力は」
「皆無だな。職業病だ。気にしなくてもいい」
「てか、何で京楽先輩はいつもボイスレコーダー持ってるのさ」
「言っただろう? 職業病だ」

 京楽はそういい、二人と学校に向かう。ユカリは学年が一つ下なので別れて、いつものように始業のチャイムの鳴るギリギリの時間に登校する京楽とハジメ。

 京楽とハジメが教室に入った瞬間、教室の男子生徒の大半から舌打ちやら睨みやらを向けられ。女子生徒も友好的な表情をする者はいない。無関心ならまだいい方で、あからさまに侮蔑の表情を向ける者もいる。

 そして決まって、毎度のことながらちょっかいを出してくる者がいる。

「よぉ、キモオタく~ん! また、徹夜でゲームか? どうせエロゲでもしてたんだろ?」
「うわっ、キモ~。エロゲで徹夜とかマジキモイじゃん~」

 一体何が面白いのかゲラゲラと笑い出す男子生徒達。

 声を掛けたのは檜山大介、斎藤良樹、近藤礼一、中野信治といい毎日飽きもせず日課のようにハジメに絡む生徒達だ。

「檜山、通行の邪魔だ。退いてくれると助かる」
「チッ、いいぜ」

 京楽が檜山にそう言いながら軽く睨み付けると檜山達は消えていく。檜山達は小者なのだ。自分よりも強い人間には噛み付かない。その為、京楽に噛みつくこと事態が少ない。

 檜山の言う通り、ハジメはオタクだ。と言ってもキモオタと罵られるほど身だしなみや言動が見苦しいという訳ではない。ハジメの髪は短めに切り揃えているし寝癖もない。コミュ障という訳でもないから積極性こそないものの受け答えは明瞭だ。大人しくはあるが陰気さは感じさせない。単純に創作物、漫画や小説、ゲームや映画というものが好きなだけだ。妹であるユカリもそうだ。ちなみに、京楽もそういったものは好きだ。突き詰めている訳ではなく、単純に趣味の範囲ではあるが……

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