合宿前は多忙の女帝
梅雨が終わり、季節は本格的な夏に入った。
普通の学校と同じくトレセン学園も夏季休業がある。
しかし少し違うのは夏季休業が7月の頭から始まるということ。
トレセン学園所属のウマ娘たちの多くは、この時期になると夏合宿期間に入る。夏はレース場に訪れるファンが熱中症などで体調を崩してしまう可能性が高く、それによって近隣の医療施設・機関が切迫してしまうことを避けるため、大きなレースもあまり開かれないので、その間に秋から冬の後半戦を勝ち抜ける強い体を作るのだ。
学園所有の合宿施設は海に面したオーシャンビューのホテルと民宿があり、ホテルは勿論だが民宿の方も生徒たちからの評判が高い。古い建物で所々リフォームを施しているが、それがかえって味があるのだとか。加えて民宿の女将さんが作る和食も人気な理由。中には泊まるのはホテルだが、食事は民宿を利用するなんていうウマ娘もいるくらいだ。ウマ娘の中にはお嬢様育ちの子もいるので、民宿で庶民的な日々を過ごしたいという子もいたりする。
ただどの合宿施設にも部屋数に限りがあるので、予約が必要。
夏の時期だと合宿施設の近くで毎週のように縁日や花火大会が催されるので、各トレーナーは担当ウマ娘とよく相談してから予約を入れるんだとか。
一方、学園が休みだからといって、学園内に学生が全くいないということはない。
合宿施設を利用しなくても通常トレーニングとして学園の設備を使うウマ娘も多いからだ。
それに生徒会の面々に至っては、この時期はかなり忙しい。
夏のオープンキャンパスや生徒たちからの要望確認及び提案等々のこのまとまった時間が取れる今でしか出来ないことがあるからだ。
今日はカフェテリアの新メニュー試食会。
前々から生徒たちにリクエスト形式で食べたいメニューを募り、実現可能なレベルの物を生徒会役員たちで選定して、今日の試食会でカフェテリアのメニューに採用か否かを決めるのだ。
「……で、これを全部食うのか……腹減らして来いって言うから、来る前に軽く体を動かしてはきたが……」
今回試食会に半強制的に連れて来られた幸福は、エアグルーヴに手渡された今回のラインナップの多さに思わず顔が引きつる。
料理の数が多い上に生徒会メンバーの何人かは既に夏合宿に入っているため、今回は身近な者たちも集められたのだ。
「そう心配するな。貴様が残しても、残りは全てあちらのテーブルに行く予定だからな」
エアグルーヴがそう言って視線をやる先には、
「トレーナーさん、私早く食べたいです!」
「トレーナー……今日のために朝ご飯はあっさりと控えめにカツ丼5キロだけにしてきた。間食もしてないからいくらでも食べられるぞ。空腹は最高の調味料だ」
あの芦毛の怪物と日本総大将がいた。ちゃんと料理が残らない対策もバッチリ。
これには幸福も「あ、なら全然残せるじゃん」と表情に明るさが戻った。
「今回は私たちから見ても唆られるメニューが多くてな。あれもこれもとなった結果、試食会に出すメニューがかなり多くなってしまったのだ」
「まあそれはいいんじゃないか? 食事は大切だからな」
「そう言ってくれるとこちらとしては気が軽くなる。やはり生徒たちにはより良い環境で過ごしてほしいからな」
そう言うエアグルーヴの表情はとても穏やかで、優しい眼をしている。
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