ハーメルン
283プロの眠り姫事件
幕開け ~デパートコスメにて~

「へぇ、シールエクステって、初めて見た……」

 秋先のとある放課後。
 都内のデパートのコスメコーナーで、ディスプレイを眺めていた円香が目を瞬かせる。
 周囲を見渡せば、同世代の女子高生の姿が多く、色々なブランドの商品を見ては、テスターを手に歓声を上げていた。

「ん? 円香ちゃん、エクステとかに興味あるの?」

 一緒に来ていた制服姿の甘奈が円香の隣に立ち、首を傾げる。
 円香は淡々と答えた。

「別に。物珍しかっただけ。ラジオで有名な女優さんがいいって、言ってたから」
「あー、まあ、目立つ様になったのは最近ではあるよね、シール。金属チップとか、編み込みとかも、自分でできてラクかな~」
「……エクステって美容室で付けてもらうものだと思ってた」

 甘奈は薄いピンクの唇に指先を当てて、少し考える。
 仕事が前倒しで終わったらしく、メイクを完全に落としていないため、大人びて見えるが仕草は普段のままだな、と円香は思う。
 とはいえ、仕事終わりの勢いをそのままに、たまたま事務所にいた自分を誘って街へ繰り出すのも、どうなのかと首を捻りたくなるが。

「ん~、甘奈はそういうのに時間と手間をかけるのが好きだからいいけど、めんどうな人もいるしね。……好き好きだよ、そこは」
「ふぅん……」

 甘奈の意見を聞きながら、円香は仕事で話す機会のあった女性スタイリストとの会話を思い出す。
 端的に言えば、エクステとは『つけ毛』で、ウィッグとは『かつら』のことを指すらしい。
 多少乱暴な解釈であるが、全体を変えるのが、ウィッグ。
 部位にアレンジを加えるのが、エクステだ。
 円香はディスプレイのシールエクステを見ながら、呟く。

「……最近、アイドルだけじゃなくて、女優さんやミュージシャンが気分を変えたい時に使うって聞いた」
「そうだね~。髪とかばっさり切ると、ファンがびっくりするし、でもいじりたいし……って時かも。使うのは」
「シルエット、コロコロ変えられないの、不自由」
「あ、あはは……そこは、まあ、職業病みたいな?」

 甘奈は苦笑し、円香が話題を変える。

「で、甜花は? 一緒に来たのにいないけど?」
「あー……甜花ちゃんは、あっち」

 甘奈に指差され、視線を移した先には、コスメカウンターに入れず、離れた場所で足腰をプルプルさせている甜花の姿があった。

「なにやってるの、甜花。……生まれたての小鹿?」
「興味があったから来てはみたものの、アドバイザーさんが怖いんだって。制服だし、仕事上がりだからメイク落ちてないし……とかが気になってるって」
「……それって、気にしなきゃいけないところ?」
「じゃないんだけどね……。まあ、気持ちも分かるけど……」
「……あっそ」

 円香はため息を一つ吐き、甜花の元へ行く。
 そして奥襟を掴み、ずるずる引きずって、甘奈のところへ戻って来た。

「あはは……円香ちゃん、強引だね……」
「そういう幼馴染がいるから、慣れ。……ほら、甜花。前見て」

 円香の促しに甜花は顔を上げて、ディスプレイを見る。

「あうぅ……。円香ちゃん、胃が痛いよぅ……。緊張する……」

 そうは言うものの、やはり興味はあるらしく、甜花は視線を周囲へ巡らせる。

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