ハーメルン
283プロの眠り姫事件
幕開け ~デパートコスメにて~

 ちょっとほっとする甘奈を傍に、甜花はとあるエクステに気を引かれ、指差した。

「……あれ、似合い……そう」

 どれ? と円香も視線を向けると、なるほど甘奈に似合いそうな色のシールエクステが、ディスプレイに展示されていた。
 ロングヘア―向けのもので、ボリュームアップを目的としている商品のようだ。
 円香から見れば、甜花と甘奈の髪は綺麗だが、もう少しサイドにボリュームがあるのも悪くない気がするので、手としてはアリではないだろうか。

「そうね、甘奈に似合いそう」

 円香が何気なく答えると、甜花は目をぱちくりとさせた。

「え、ちがう……よ? 似合いそうなのは、円香……ちゃん」
「私?」

 円香は少し驚いて眉根をひそめたが、甘奈は、「なるほど」と頷いた。

「あ~、確かに似合いそう。ほら、甘奈達と円香ちゃんって、髪の色似てるし、色合いに気を付ければ、ロングもいける気がする」
「……そう?」

 円香は試着品を手に、自分の髪に合わせてみる。
 鏡を見る限り、色は確かに合っているが、ロングの自分というのは、ちょっとしっくりこない。

「甘奈は似合うと思うよ? 甜花ちゃんは?」
「うん……甜花も、にあ、うと思うよ……?」

 円香は言われて悪い気はしないものの、やはり馴染みがよくないので、試着品を元の場所へ戻す。
 甘奈と甜花も、無理強いするつもりはないようで、それ以上、突っ込まない。
 そう言えば、と思うことがあったので、円香はとある問いを口にする。

「そう言えば、甜花。今度、声楽……オペラの仕事が来てるって聞いたけど、本当?」

 甜花が頷く。

「うん……。三日間、体験レポートみたいな、感じ……。……かなり、緊張して……る」
「甜花ちゃん、一人の仕事だしね……。一度仕事に入ったら、二時間くらいずっと声のトレーニング……だっけ?」
「う……ん……。のど、開いておかないと……怒られる……。でも……もっと気を付けなきゃいけ、ないのは……それ以外の時間……」

 円香が、「それ以外?」と首を傾げると、甘奈が説明する。

「のどのケアだよ。ああいう分野のプロは、のどを守るのも大切だから、決められた時間以上に大きな声を出しちゃいけないの。だからやることが終わったら待機するのも、仕事なんだって」
「へぇ……初耳」
「その三日間は、仕事が終わったらすぐ事務所へ戻って、決まった時間分は待機。……で、その後、帰宅って流れだね~。事務所にいる間は、プロデューサーさんが張り付くんだっけ?」
「う、うん……」
「ふぅん……」

 となると、自分がよくやるダンスの自主練も、分野によってはアウトな行動ということか。
 目標へ向かって一直線になるばかりが、上達への道ではないのかも、と円香は少し思う。
 そういう視点の違いというか、考え方の違いを知るのは面白い。

「で、でも、甜花が気になる……のは……」
「?」

 再び首を傾げた円香に、甜花が肩を落として言う。

「仕事の最初の日、欲しいゲームの……発売日……。事務所を出る頃、店、閉まってる……。どうしよう……?」
「……通販じゃ、ダメなの?」
「甜花ちゃん、決まった店舗の特典の缶バッジが欲しいんだって。限定販売だから、並ばないと厳しいとか」

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