終幕 ~眠り姫の伝説~
「あれ、甘奈、香水変えた?」
そして、オペラの仕事の終わった翌日。
放課後の事務所で、隣を通り過ぎた制服姿の甘奈へプロデューサーが声をかけた。
甘奈は、ぱあっと嬉しそうに表情を輝かせる。
「あ、分かる? この間、新発売されたやつなんだ~。 甘奈もお気に入りで!」
「へぇ、いい香……っ」
唐突に言葉尻をしぼめ、口へ手を当てたプロデューサーに、甘奈が首を傾げる。
「どうしたの?」
「あ……、いや、その……。甘奈、大丈夫?」
「大丈夫って、何が?」
プロデューサーは口ごもりながら、答える。
「あー、その、別の会社の友達がこの間、後輩の女性社員に、『あ、シャンプー変えた? いいにおいだな』って言ったら、上司へ『セクハラだ!』って裏で報告されたって話を聞いて……」
甘奈が露骨に渋い顔になる。
「それは、『ハラスメント・ハラスメント』だよ。そこまで気にしてたら、何もできないじゃん……。自分で整髪料を変えたのに、相手に、『いいにおい』って思われたらセクハラっていうのは、おかしい」
「だ、だよな。俺の友達に褒められたらセクハラなのに、特定の男女に褒められたら嬉しいとかだったらしいから……、おかしいとは思ってたんだが……」
「あー……、言い方は悪いけど、それは無視するしかない事案だよ。交通事故にでもあったと思うしかないかも……」
「そ、そうか……」
甘奈は苦笑する。
「大丈夫だよ~。甘奈、言いたい事があったら、直接プロデューサーさんへ言うし! 実際、嬉しかったよ?」
「あ、ありがとう……。そう言ってもらえると、助かる」
プロデューサーも苦笑して頬をかいていると、玄関から、
「お疲れ様です」
という声が届く。
「あ、円香ちゃん! おつかれ~」
「お疲れ様、円香」
甘奈とプロデューサーの反応に、円香は軽く、「どうも」とだけ会釈する。
その視線が、事務所のテレビでゲームをする甜花へ向く。
ヘッドフォンをして、わき目も振らず、あいさつにも気付かずに夢中でプレイしているのは、件のゲームだ。
「プロデューサー。仕事中ではありませんが、ここ、事務所ですよ? いいんですか?」
円香の指摘に、プロデューサーは苦笑する。
「ま、まあ、通販でガマンしてくれたみたいだし、多少はな?」
「あまり甘やかすと、つけあがりますよ? ミスター・フェミニスト」
「は、はは……。オペラのレポートも頑張ってくれたし、特別手当ってことで……」
円香は肩を竦め、甘奈は笑ったが、プロデューサーが、ふと何かに気付き、眉間に皺を寄せる。
甘奈が首を傾げる。
「どうしたの?」
「いや、甜花のショルダーバッグの缶バッジ、どこかで……」
はっ、とした様子でプロデューサーはパソコンを立ち上げ、ネットで画像検索する。
そして、渋い顔になった後、甜花のヘッドフォンを、ひょいと取り上げる。
「あぅ……? プロデューサーさん、なに……?」
プロデューサーは、ちょっと厳しい顔だ。
「甜花、その缶バッジだが」
「ん? にへへ、いい、でしょ? ゲームと同じキャラ」
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