7,忍耐
エイタはRX-79T『プロト陸戦型ガンダム』を、じっと地下空間の中でしゃがんだ姿勢で維持していた。
時折、頭部を巡らして周囲に接近するザクがいないかを確認する。
ついさっきまで、エイタはガンダムを放棄して逃げる事を考えていた。
相手が複数のモビルスーツ部隊なら、実戦経験のないエイタに勝ち目はない。
だが『ガンダムを放棄したからと言って、相手が見逃してくれる』という保証はない。
EVが破壊された現状では、歩いて南側の宇宙港まで徒歩で行かねばならないが、その距離は30キロ。
その間にモビルスーツに襲われれば一巻の終わりだ。
さらに言えば、ここでガンダムを放棄した事が上層部に知られれば、軍の機密保持違反どころか、ヘタをしたら敵前逃亡で銃殺の可能性すらある。
「ちくしょう、なんでこんな事に……簡単な任務じゃなかったのか?」
エイタの口から思わず不平が漏れた。
自分をこんな場所に送り込んだ上官、その原因を作ったテム・レイ技術大尉を罵る。
ふと時計を見ると、敵の二発目の攻撃から一時間以上が経っている。
……もうこんなに時間が経ったのか?……
エイタは再びガンダムの頭部を回して、周辺の様子をズームアップしながら索敵をした。
だが敵影らしきものは一切ない。
「もしかして、敵も単独なのか?」
エイタは士官訓練学校で、同室の一人が得意げに話しているのを思い出した。
「連邦軍は狙撃は二人一組が基本なんだ。狙撃手と計測手だな。それに対し、ジオン軍は人手不足だから狙撃も単独で行うらしいぜ」
……あれはモビルスーツでの狙撃も同じなのかもしれない……
さらに言えば、狙撃とは本来隠密作戦のため、三人以上で行動する事は稀だ。
……だとしたら、俺にも満更勝ち目が無い訳じゃなさそうだ……
ジオンのMS-06『ザクⅡ』に対し、このRX-79T『プロト陸戦型ガンダム』はあらゆる面で優れている。
「レイ主任の息子は全くの素人なのにガンダムを動かして、二機のザクを撃退したんだ。俺にだって出来ないハズがない」
「それなのに開発者の俺が、たった一機のザクに撃たれただけで、モビルスーツを放棄して逃げ出したなんて言われたくない」
エイタはそう言って自分を鼓舞した。
彼が言う『レイ主任の息子』は特異な才能を持っている事を、この時のエイタは知るよしも無かった。
ジオン軍の上級曹長・ヒロシ・オダワラは、丘を盾にした姿勢でザクの照準器を覗いていた。
「奴さん、さすがにうかつに動いたりはしないか」
オダワラはそう呟いた。
連邦のモビルスーツが姿を見せれば、狙い撃つ事はできる。
だが命中させる自信はなかった。
前回の着弾を考えれば、10メートルほど右を狙えばいいはずだが。
「相手が『コッチが外した理由』を知らなければ、姿は見せないだろうけどな」
オダワラはそう言いながら、水筒からの水を一口だけ飲んだ。大量に飲むと尿意を催す。
そしてポケットからかなりくたびれた感じの一枚の紙を取り出して広げた。
サイド7の自作の地図だ。地図の中にはいくつも丸印や四角で囲んだ場所、×印などが付けられている。
それを見てオダワラはほくそ笑んだ。
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