ハーメルン
ARMORED CORE V ―OASIS WAR―(改訂版)
6、Dry Mirage(中)【オアシスルート】
戦況は芳しいとは言えなかった。
怪しい動きを見せるミグラントやそれ以下の勢力のテロリストを伸すのに戦力を消耗させてきて、いざ回復だという真っただ中に襲撃が起こったため、十全の体勢で迎え撃つことができなかった。保有するAC三機と傭兵一機ではいかんせん数が足りない。対する敵は報告される限りで四機以上を揃えてきており、街の外縁部で撃墜したのを含めれば二倍以上だった。幸いなことと言えばAC戦力は傭兵を含めれば四機いるということである。もしACが居なかった場合、早々に白旗を上げることを検討しなくてはならなかったであろう。
キリエは、オアシスの最深部というべき地下にある装甲化されたHQで、街中から上がる悲鳴のような情報乱流に顔を顰めていた。第一段階の迎撃では勢力を殺し切れず、第二段階でもそぎ切れなかった。状況は第三段階、すなわち街に誘い込んでの迎撃に移行している。もしも浸透を許せばオアシスの中心部に入られてしまう。現に歩兵の浸透が確認されており市民が身を挺して防衛に回っている現状がある。
そして、オアシス側は敵がどこの勢力なのかを掴めないでいた。
なぜか?
攻撃が間接的だからである。固有の戦力ならば特定は容易だが、現在押しかけてきている戦力は悉くがお雇いなのである。特定などできるはずがない。それぞれの勢力がバラバラなのだから。
もっとも、キリエらオアシスの上層部だけはおぼろげながら襲撃の理由を推測するに至っていたのだが。問題は推測が確定に至らないことである。断言するには証拠が必要だ。座標を特定するには三点からの測定が必要なように。
キリエはオペレーターを通じて優先目標の変更を指示すると、傍らに控える男に目配せをした。彼女の電子画面が発する色取り取りが作り上げる影に紛れて目視困難となっていたが、言葉が遮られる恐れはない。
「ジョン。奴らの狙いは………」
「ええ、いかがなさいますか。スイッチ一つで沈めることも容易です」
男――キリエの右腕たるジョンはそう言うと、おもむろに箱状の金属ケースを胸元で振って見せた。煙草入れにも見えなくもないそれは、オアシスが抱える重大なものをこの世から永遠に葬り去る権限を有するものである。
キリエはそのケースをじっと見つめたまま、乾いた唇に指をあてた。
「………もし完全に破壊してしまった場合、我々の価値は消失する。私は自らカードを捨てることはしない。が、いつでも破壊できるというのはプレッシャーとして使える」
「中心部に侵攻された場合は……通信を試みましょう」
「頼む。だが、まだ負けたわけではない。応援も要請してある。我らの意地をみせてやる」
――――――――――
北の塔にて。
レイヴン2は近寄り過ぎた敵を相手にして、狙撃を止めた。近距離は狙撃攻撃の効力が最も発揮し難い戦闘距離であるからだ。レイヴン2は敵が目の前にいるのにスナイパーキャノンに固執するほど間抜けではなかった。
敵を前にしてスナイパーキャノンを躊躇なく投げ捨てる。銃が傷もうが構うまい。くだらないポリシーよりも生存が最優先だった。それよりもまず動くことが求められた。レイヴン2は機体を駆るべく命令を下した。
狙撃体勢解除。アンダーパイルがコンクリートから引き抜かれた。
ハンガーユニット作動。ガション、と小気味いい音。重量四脚型ACドルイドの両腕に武器が握られる。
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