ハーメルン
ARMORED CORE V ―OASIS WAR―(改訂版)
6、Dry Mirage(後)【オアシスルート】

 規格外品がレバースイッチに反応した。
 勝手に機体と直結。回路開く。ジェネレータ、ハック。出力値を操作、設計限界値に上昇。FCS、ドライブシステムを独自管制システムに変更。タンク型の両腕に握られた火器が専用アームに半ば奪い取られる形で背面部に固定された。逆流制御モノリス作動。
 両肩の、円盤を複数並べたような特徴的な“砲”が起動し、水平に倒れた。砲はスライドシリンダーに従い背面に大きくせり出すと、スライドレールに沿ってパルス砲が機体側面まで滑っていき止まった。全体が俄かに青白い迸りを孕む。
 機体の温度が急上昇。ラジエーターが限界稼働。冷却液が機体から噴出し、蒸気と化す。専用の放熱孔が四か所開いた。蓋が弾けるように跳ね上がるや、熱交換ユニットをさらけ出した。
 もしそれが発動したのが前線だったのならば、仲間たちは誇らしげに笑みすら浮かべたかもしれない。
 だが問題なのは、それが発動したのは味方の拠点内部だったということである。
 兵器は感情を持たない。数字という名前の命令さえ下れば己を破壊することさえ辞さない。敵、味方、関係ない。命令がプログラムに反さない限りは実行する。それが機械の性質であり、逆らえない本質であり、存在意義である。
 だから、パンツァーメサイアにしょい込まれた全方位殲滅火器――『MULTIPLE PULSE』は、味方を殺せという命令にも顔色一つ、出力数値の一つさえ変えずに、頷いたのだ。
 円状レールを埋め尽くさんばかりに備えられた計130門のパルスキャノンが、レールの上下展開に興奮したように蠢いた。ジェネレータから供給される過剰なエネルギーがパルス装置の発振をより強固にしていく。破滅的な威力を宿したエメラルドグリーンのエネルギー場が機体両面に展開した装置を覆いつくし、その余波だけで大気中の塵が蒸発する。
 弾倉交換を行っていた盾持ちが、味方の――レイヴン3の裏切りに気が付き旋回せんとしたが、既に遅い。
 兵員輸送用のヘリが上空へ退避せんとしたが、既に遅い。
 RPGを抱えた兵士が泡食って拠点から逃げ出したが、既に遅い。人の足は兵器が発揮する暴力から逃れられるほど機動性に富んではない。
 次の瞬間、130門のパルスキャノンが前方から順々に破壊の津波を放った。盾持ちが溶ける。ヘリがエネルギーに晒され爆散する。戦車が吹き飛ぶ。地面が溶ける。電流が流れ四方に着弾する。拠点の塔が半ばから蒸発して倒壊する。瞬間的な電磁波が電子機器の回路に異常電流を齎す。エメラルドグリーンのエネルギー波が円状に周囲を溶かす。木管楽器を数千より集め怪獣に吹かせたとしか表現できない不快な音色が破壊を伴い遍く拠点を飲み込んだ。
 弾薬に引火。拠点から火柱が上がった。
 全てが終了した時、拠点には何も残ってはいなかった。少なくとも戦闘を継続できる存在は、OWの引き金を絞れたタンク型を除いて、いない。
 まるで喜劇のように、やや遅れて、焼け野原になった拠点で辛うじて原型を留めた鉄塔が、倒れる。
 火の中にぼんやりと浮かぶ影が一つだけ。爆発に耐えたレイヴン3の機体だった。OWは既に停止しており、きな臭い白煙がパルス砲の一門一門から立ち昇っていた。過剰なエネルギーがパルス砲を機能停止状態に追い込んでいたのだ。
 砂漠迷彩をしたタンク型のパンツァーメサイアの手に武器が戻ってきた。言うまでもないがハンガーユニットに搭載できるものであり、大型火器ではない。拾おうと思えば可能だがパルスでこんがり焼けた火器を使う気にはなれなかった。

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