ハーメルン
型月転生
最後の夜に

 電気はあるが、暗い部屋だ。二人の男女が居るが、行動は対称的。
 女の方は忙しなく片方の手に黄金の杯を持ち、もう片方の手先に魔方陣を浮かべては作業を繰り返す。対して、男の方は己の礼装を手入れしているだけだ。二人に言葉は無く、オルゴールの音色だけがその空間を染め上げていた。

 正確には、未だ生存している銀髪の女もいるのだが意識が無い。

 子守唄、だろうか。
 ゆっくりとした、オルゴールの音色。それは聞くものに決して不快感を与えず、逆に安堵を与えることだろう。

 不意に女の方の手が止まった。
 コトリ、とその手から杯が下され、台に置かれた。その台に刻まれていた魔方陣が正しく機能し、一瞬の後には浮遊する黒い球体と黄金の杯に分かたれていた。

「…………終わったわよ」
「……そうか」
「…………」
「………………」

 無言の静寂。二人とも言葉を発することなく、視線すら交わすことなく、さりとて別の作業に手をつけるわけでもなく、ただただ黙していた。
 両者の顔に歓喜の色は無い。

「時計の針は逆転しない」

 不意に男が呟いた。

 離れがたい日常。そこに華美なものは無かろうと、陽だまりの暖かさと世界の煌めきが確かに自分たちを包んでいたと分かるその時間。
 約束の時は過ぎた。

 子供から大人になることは許されても、その逆は許されない。
 同様に、過去をいくら切望しようと戻ることは許されないのだ。

「あと三騎……ギリギリかしらね」
「まぁ、今日中にどちらかは脱落するだろ」

 上の空。
 二人の言葉を表すにはそれに尽きた。

 放たれた言葉には熱が無く、何か別のものを感じる。そこに意義は無いのだと。求めるのはそんなものではないのだと。

「はぁ……感傷に浸るのは良くない。これで最後だ。
 短い間だが宜しく頼むよ、キャスター」
「えぇ……」

 女───キャスターは曖昧な答えを返した。
 案外女の方が感情の切り替えが苦手というのは、古今東西同じなのかもしれない。

 しかし、彼女の方も首を振ると、意を決したように話し出した。

「マ、マスター!」
「ん?」
「私たちには、二つの選択肢があるの」
「選択肢?」

 悲痛だが、意を決した表情。
 同じものを彼女は何度か経験しているのだろうな、と男───少年は思った。
 一生に一度、という言葉があるように、決意はすればするほどその効果が薄まる傾向にある。彼女のそれは、酷く手慣れたものであった。
 本人は当然無自覚であろうが。

「一つ目は、このまま闘うこと。
 この神霊崩れを礼装に加工して、セイバーのマスターを貴方が殺害するまで私が持ちこたえる」
「それ以外にあるのか?」

 そもそも、サーヴァントって加工できるのか、と少年は呟く。
 アンリマユはサーヴァントであるが呪いの類とほぼ同一であり、長年小聖杯を収めていた母体そのものの解析までやって初めてそれほどの干渉が可能になったらしいが。

 サーヴァント五騎分の魔力が溜まれば自動的に聖杯は魔力の余波で母体を焼き尽くすので、アーチャーの魂が消化されるまでが勝負だったという。


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