ハーメルン
型月転生
第4章・ハンターと化した切嗣

───ぴちゃぴちゃ

 水音が響く。
 苦しみに呻き、もはや周りの判断がつかない状態で、ひたすら憎悪を糧に魔力(チカラ)を絞り出し続ける男が一人。
 譫言なのだろう。その口からはもはや言葉と判別できるような音はほとんど漏れていないが、それでも耳を澄ませばハッキリと聞き取れる。

『時臣ぃ……』系列が約2%。
『桜ちゃん』系列が約98%。

 その男は苦しみの淵に立たされてさえ、なお一人の女子のために心を奮い立たせていたのだ。
 動機が何であろうと、それは並大抵の人間に出来ることではない。

「マスター、これを見せられても正直反応に困るのだけれど」
「まぁ、生で見るとそれなりに神経に来るよなぁ……」

 一人の女性に恋い焦がれ、その女性と他人の男との間の娘のためにその生命を使い切らんとしている男を前に、やや中性的でどこかあどけない顔立ちをした黒髪黒目の少年と銀色のドレスを着た女性はそう評した。

「正直言わせて貰うなら、男としてはマスターの数段上ね」
「下心が根底にあるのは否定しないけど、それでもやってることはやってることだしな。完全に負けてるとしか思えない。だが、俺も死ぬわけにはいかないからな」
「私はサーヴァントよ。マスターの剣となるのが務めであって、任務に私情を挟む気は無いわ」

 少年は素直に認めた。
 そもそも、死にたくないが故にこの戦争に参加した少年と違い、この男は他者のために不退転の覚悟どころか死亡覚悟で臨んでいる。
 格というか、もはやそういうレベルではなかった。

 他者のための自己犠牲。聞こえは良いが、それを実行できる存在は相当希少だ。
 例え家族と比較しようと、自分の身を可愛がってしまう人間のどれほど多いことか。

 他者、それも愛した女性と別の男の娘にその生命を捧げられる男など希少どころの話ではない。
 その生命の輝きは、儚くもあり鮮烈である。少なくとも、見るものになんらかの思いを抱かせるであろうことは確実だ。

「いや、キャスターのキャラはそうでないだろうに……」
「……察しなさいよ」
「なんか言ったか?」
「……はぁ、始めるわよ」

 初めに蟲の支配権が持ち主に知られぬよう行われ、次に令呪とパスの分割が始まった。
 ケイネス・エルメロイが構築した術式とは逆のもの。魔力供給を男に残し、マスター権と令呪を少年に移植する。
 神代においても最高峰の魔術師であるキャスターが執り行ったこともあって、移植はものの数秒で終了した。

 令呪は引き剥がされたとはいえ、魔力供給は男がまだ担っている以上、負担が低下するわけでもない。
 それを知っているキャスターは、素早く何処かから小瓶を取り出して中身を男に振りかけた。

「マスター、どうかしら?」
「完璧だよ。ありがとう、キャスター」
「どういたしまして」

 まだぴくぴくと小刻みに痙攣していた男の手のひらから、くしゃくしゃの紙が落ちる。
 何かしら、とキャスターはその紙を拾い上げ、中身を開いた。

「マスター」
「分かってるよ。俺は魔術師だ。
 供給してもらった魔力分の対価は払うさ」

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/4

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析