谷
私はライオネルから生み出された、支配の神。
名前は、神綺。
名づけてくれたのも同じ、ライオネル。綺麗な神だから、神綺……なのだそうだ。
綺麗だなんて、そんな……正直だわ。
なんて私が感動している間に、ライオネルは外界へと旅立ってしまった。
ライオネル。私を生み出した親であり、私にとって唯一の……存在。
けどライオネルは、私を生み出してほとんどすぐに、私にこの世界を託して、豊かだと言う場所へと消えていった。
ライオネルの最後の言葉により、私は世界の管理という大任を授かった。
つい勢い余って、豊かな世界を創るだなんて言ってしまったけれど……ライオネルが去ってから、とにかく困り果てた。
外界があるというのは知っている。けど、そこにどんな世界が広がっているのかは、わからない。
私はこの世界で生まれた、この世界だけの神。神とはいえ、全知全能というわけではない。
確かに、世界創造や世界改変のために必要な“原初の力”の使用法は、本能として知っている。
でも、豊かな世界って言われても……全然わかんないや。
ひとまず私は、空間を大きく広げたライオネルの思惑を汲み取って、とにかく広く、のびのびとした世界を目指すことにした。
ライオネルは狭い状態の世界をひどく嫌っていたようだったので、これはまず間違いないはずだ。
「……うーん」
ところが、既に空間は無限大とも言って良いほどに広げられており、これ以上いじる余地は見られない。
じゃあ、次はどうしたら良いんだろう。
ライオネルはどんな世界が好きなのだろうか。
私は、別に今のままの、冷たい平坦な床がどこまでも広がるような世界でも構わないんだけど……。
「……私が好きに変えちゃっても、いいのかな?」
ライオネルは、私に任せると言った。
なら、私が全ての権利を握っているということで……。
「よーし……」
これはもう、好きなようにやるしかないわよね!
「それで、こういう景色になったっていうわけか」
「どうですか?」
神綺が“えっへん”とでも言いたげに胸を張る。
思わず“すごいねー”と頭を撫でながら褒めてやりたくなったけど、実際に目の前に広がる光景を前にしては、そんな思いも湧いてこなかった。
言うなれば、それは……魔境。
前方五百メートルの地点からずっと向こうの視界の果てにかけて、棘のように細長く鋭い岩の集合体が大渓谷を形成している。
ドラゴンやワイバーンが空を飛び、天には常に稲妻が走っていたとしても何ら違和感のない、恐ろしげな絶景が、そこに広がっていた。
荘厳というか凶悪な景色に、グランドキャニオンも思わず平らになってしまうレベルである。
「……すごいね」
「ふふふ、自信作ですからね」
神綺と再会した私はしばらくの間、彼女と永きに渡る孤独が氷解したことを喜び合っていたのだが、その後ハッと思い出したような顔で誘われたのが、ここであった。
魔界内は原初の力によって瞬間移動ができるらしく、神綺の手を握った数秒後にはこの場に到着していた。
で、いきなり視界に飛び込んできた人外魔境に、私は言葉を失ってしまったのである。
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