雁夜は夢を見る①
勘というものは、あまり好きでは無い。と言うのも、ウェイバーにとって勘というのは、外れの代名詞、みたいた所があったからだ。しかし、それについて彼を非難するのは酷というものだろう。普通、勘とは運以外の要素でありえないものなのだから、そもそも頼るのが間違っている。
そのベルが鳴ったのは、夕食を食べ終えて間もなくの頃だったか。ゆっくり腹を休めていた、という事だけは覚えている。
魔術礼装と言うのもおこがましいその道具。ただ魔力を通して鳴らせば、別の場所にあるもう一つも同様に音を奏でる、というだけのもの。しかし、その音色は、ウェイバーの背筋を凍らせた。
ベルは、本来鳴るはずのないものであった。と言うのも、これは本当に緊急用だったのだ。
アーチャーと休戦した時、一つだけ取り決めをした。この、聖杯そのものに異常がある緊急事態。もしもの為に、連絡くらいは取れた方が良いと。
連絡を取る余裕がある場合は、直接連絡を取るからいいと言われた。ちなみに、場所も分からないのにどう連絡を取るのだと言ったら、知ってると簡潔に、かつ当然のように答えられた。全身から汗が噴き出たのを覚えている。
そして、もしその猶予すらなかった時の場合。とにかく『何かがあった』という事だけは伝えたい、という時にどうするかと言う話で。ウェイバーは、自分が持っている道具を渡そうと提案した。とりたてて特徴のない、そして扱いに特殊性のないそれであれば、緊急連絡にもってこいだ。
あっさりと受け入れられた意見に、ひとりほくそ笑むウェイバー。渡したベルには、密かに探索術式が組み込んであり。それを辿れば、アーチャーの拠点が分かると思ったのだ。
当然これは意味が無かった。あからさまに拠点と分かる膨大な敷地、それがアーチャーのものだと確定しただけだったのだから。知られていないよりも、攻め込めない事を重視した拠点。確かに、発覚したところで痛くもかゆくもない。ひっそり下唇を噛み、見透かしていたライダーにそれをからかわれ、さらに悔しい思いをした。
と言うわけで。そのベルは、まず使われない筈のものであったのに。こうも素早く、しかもあっさりと使われるとは予想だにしていなかった。なぜならば、それが使われると言うことは。あのアーチャーから、それだけの余裕を奪っているという事なのだから。
だからこそ、ここは慎重に動くべきだ。なのに、
「よし坊主、出撃だ!」
「なんで!?」
「勘だ! 余の勘がそうした方がいいと言っておる!」
しかも、その理由が勘なのだ。ウェイバーの人生の中で、最も信用がおけないものを上げろと言われれば、常に上位に位置する勘。
お好み焼き屋の一件で、ライダーの勘は無視できないと承知している。だが、勘はただの要素。それを頼りに動くとなれば、話は全く別なのだ。
「あのなぁ……」
「待つのだ。今回はそれなりに根拠もある」
大きな手のひらで、ウェイバーの視界を隠すようにしながら。
身長を誇られているようで気に入らない手の平を、叩いてどかす。言葉にどれほど説得力があるのかは分からない。しかしウェイバーは、自分が半ば言葉を信じることに決めているのを自覚していた。何だかんだ言っても、主張の内容がむちゃくちゃでも、最終的に、言葉が正しいことが殆どだったのだから。
「そもそも、ランサーとアーチャーに組まれて、奴らから余裕を奪える存在などまずおらぬ」
「そうだよ。だから、半ば孤立している僕たちは冒険できないんだろ」
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