ハーメルン
ふと思いついたFate/zeroのネタ作品
綺礼は不感症

 ――祈りを捧げる。
 その姿は、堂に入っていると言ってもいいだろう。少なくとも、他人に見せて恥じるような作法ではない。そう言峰綺礼自身が自画自賛できる程度には、洗練されたものだ。誰一人として、綺礼に文句をつけた者はいない。つまりは、少なくとも、その程度には出来ているという事なのだろう。
 片膝を突き、胸元で合掌し、頭をたれてただ祈る。宣教師が説法を説く台か、巨大なパイプオルガンか、その上にあるステンドグラスか。あるいは、その辺にあるキリストやマリアを模したと信じられている石像。そんなものの向こう側に、やはりいると信じられている唯一神に。
 疑うべきでは無い。それは分かっている。少なくとも、信心深い者がする思考ではない。そして、綺礼は誰よりも信心深くなくてはならない。しかし、と。否定するよりも早く、思考は続けられた。
 聖杯戦争。サーヴァント。英霊。願い。どれもこれも、つまらない。正確に言えば、興味を引かれるようなものは、何一つ無い。願う事もない。何も無い。己に令呪が現れた事に多少驚きはしたが、それだけだ。繋がりの深い遠坂時臣からの要請がなければ、すぐにでも破棄していたであろう程度のもの。つまり、やはり。これも無い。
 綺礼が僅かな疑問を持ち始めたのは、実際にサーヴァントを召喚してからだった。別に、アサシンというサーヴァントに特別な何かがあるわけではない。あえて言うならば、召喚できた事自体に驚きを隠せなかった、という点だが。まあこれは、魔術関連に対する常識的な知識があれば、誰でも同じ道を辿るだろうが。英霊という、霊的に存在を一段昇華させた者をほぼ完全な状態で召喚できるなど、誰が考えるだろうか。はっきり言って、その瞬間を目の前にするまでは、良くて話半分、実情はただの妄言だろう、などと失礼極まりない事を考えていた。少なくとも、密かに病院の手配を考え、召還後にキャンセルしていても、非難されるいわれは無い。
 実際に、英霊という存在を目の前にして。綺礼は口に出さずに、実の父にすらそれを打ち明けず、思う。
 彼らという存在は、何なのかと。
 過去の偉人や有名人。レジェンドやミソロジーの登場人物。言葉にしてみれば、ずいぶんと卑近な存在だ。実際、紙をめくればいつでも会える英雄を、ありがたく拝む者もいまい。御利益を得られるのは、呼んでいる内だけなのだ。まあ、少年少女の心を躍らせるのには、この上なく役立つだろうが。そういう意味では、下手な神よりも御利益があるかもしれない、と考え直す。
 とりあえず、一番驚いたのは。英雄という者が――少なくとも、そうであると信じられている者が――実際に召喚できた、という点だ。
 偉人、有名人、伝説、神話。とにかく、そんなものの人物。なぜ、そんなものが呼び出されるのか。いや、なぜそんなものが存在するのか。英霊とは、いないからこそ意味があるというのに。そんなものが本当に存在してしまっては、全くの無意味だ。実体として存在してしまっては、誰も盲目的に信じることができない。
 例えば、神性というスキルがある。あらかじめ言っておくと、綺礼に限らずキリスト教徒には、ありえない話だが。ヤハヴェこそが唯一神なのに、それと全く関係を持たず『神の血筋』もくそもない。ないのだが、まあ、大目に見たとして。他の宗教で神と信じられる者の血族も、英霊として存在するのだという。
 まず、失笑をした。馬鹿な、と。引きつりそうな口元を必死で押さえて、まるで何でも無いことの様に、当然の有様のように、笑った。続いて、下らないとも。そして、呪った。

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