ハーメルン
悪徳の都に浸かる
013 GO THE EAST

 これは死ぬ。近い将来必ず死んでしまう。
 そう断言できるほど、当時のロアナプラは荒れに荒れていた。ホテル・モスクワ、三合会、コーサ・ノストラ、マニサレラ・カルテル。今後発足することとなる黄金夜会に名を連ねる大組織が一様に争っていたのだ。戦火は瞬く間に街中に広まり、安息の地など何処にも無くなった。

 そんな街の中で俺はといえば、なんとか寝床の確保に成功していた。数日前まで二階建ての事務所として機能していた建造物である。その二階が襲撃によって破壊され、天井や壁がスッキリしてしまったために破棄されたのだろう。誰も居なくなったその建物の一階、二階や一階の入口付近と比べ比較的破壊の少ない部屋を使用させてもらっている。雨風さえ凌げれば問題ないので、俺にとっては十分だった。
 だが、俺の寝床は僅か数日で消滅することとなる。
 元の持ち主であったコロンビア・マフィアたちが、この建物を焼き払ったのだ。
 どうも文書などの重要書類を消し去るために火を点けたらしいが、それだけ重要なものなら持ち出しておけよと声を大にして言いたい。眠っている最中に火を点けられたものだから慌てて飛び起き、そのまま脱出。飛び出した先には火を放ったコロンビア・マフィアたちがおり、目を丸くしていたが、こちらには構っている暇などない。何やら大声で叫んでいるのを華麗にスルーして、その場から一目散に走り去った。

 その辺りからだろう。
 どういうわけか、俺の周囲がどんどん騒々しくなっていったのは。
 どうやら俺はそのコロンビア・マフィア、マニサレラ・カルテルの連中に目を付けられてしまったらしく、武装した構成員たちに街中を追い掛け回されるようになってしまったのだ。当時の俺にはそんな奴らに対抗できる武器も持っておらず、また徒手格闘で圧倒出来るほど対人格闘に精通しているわけでもなかった。となると俺に出来ることなど逃げ回ることくらいで、奴らの監視網から逃れるために東へ西へと駆け回ったのだった。
 当然無傷というわけにもいかず、初めて銃弾が肩を掠めたときはその焼けるような痛みに思わず叫びそうになったほどだ。流石に声で相手に居場所を特定されるわけにはいかないと必死に声を押し殺したが、あれ以来銃で撃たれても当たらないよう回避術を必死で練習したりもした。実際にうまくいった試しはないが。
 そんな逃亡劇を一ヶ月程続けていると、今度はイタリアン・マフィアに目を付けられた。
 コーサ・ノストラはマニサレラ・カルテルと抗争を続けているイタリアン・マフィアだが、敵対しているマフィアがたった一人の人間を始末できないという噂を聞きつけたらしい。その話を聞きつけたコーサ・ノストラの上層部が、カルテルの連中に不可能なことをやってのけてやろうと完全に間違った方向に動き始めたのだ。まず第一に俺は逃げ続けていただけでカルテルの連中には一切手出ししていない。だというのに噂にはいいように尾ひれがつけられ、構成員五十人を返り討ちにしたことになっていた。更に俺にとって悪いことに、この噂をカルテルの連中は否定しなかったのだ。そこにどういった意図があったのかは知る由もないが、結果的に俺はコロンビア・マフィアの構成員五十名をたった一人で殲滅した凶悪人物と認定されてしまったのだ。
 
 そういう噂が流れれば、当然相手もそれなりに警戒するわけで。
 コーサ・ノストラの構成員たちは、明らかに人に向けていい武器じゃないものを携え俺を殺しにやって来た。カルテルの連中が握っていた拳銃が可愛く見えてしまうライフルやショットガン。それらの銃弾を必死に掻い潜り、俺はひたすらにロアナプラを駆け回る。

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