013 GO THE EAST
不幸中の幸いというべきか、カルテルの連中に追い回されたことで街の地形は大方把握できていた。この道をどう進みどこを曲がればどの通りに出て、逆にここを直進すれば行き止まりになる。そんな風に頭を働かせ、時には相手を袋小路に、時には足場の悪い場所へ誘導して逃げ続けたのだった。
コーサ・ノストラの構成員からただひたすらに逃げ続けて二週間。
俺の噂に新たな項目が追加された。
イタリアン・マフィアの構成員三十人を無力化した、というものだ。
当然のことながら、俺には一切心当たりがない。
一体全体どうしてそんな噂が流れたのか定かでないが、この噂もまたカルテルと同様にコーサ・ノストラは否定しなかった。マフィアというのは体面をとても気にする人種だ。根も葉もない噂を立てられれば顔を真っ赤にして否定するのが普通だろう。
しかしながらそんな素振りを全く見せないのは、抗争相手に下手に焦燥を伝えたくないからなのだろうか。
マフィア事情などこれっぽっちも知らない俺は、そんな風に考えていた。
この街を牛耳ろうとしている二つのマフィアから逃げおおせたことで、住人たちにもその噂は届いているようだった。曰く、たった一人で二つの組織を潰した東洋人。
いや潰してねえし、そうばっさりと言ってしまいたいが、そうすると俺がその東洋人ですと白状しているようなものだ。ロアナプラには決して少なくない数の東洋人が暮らしている。マフィア連中には顔バレしているが、住人たちの多くはその東洋人の顔を知らないのだ。こんな所で不要なリスクを背負うこともないと、傍らで囁かれる噂の全てを聞かなかったことにした。
2
「おい、ウェイバーの奴はどうした」
「知らんね、どうせどこかの酒場だろう」
「ウェイバーには言うだけ無駄なことよ。自由奔放を絵に書いたような人間ですもの」
三合会所有のバーに、黄金夜会のメンバーたちが一同に会していた。だがその中にヴェロッキオ、そしてウェイバーの姿はない。ホテル・モスクワと三合会、そしてマニサレラ・カルテルの支部長、その腹心のみだった。
「ま、今日は定時連絡だけだ。強制参加などと銘打っちゃいない以上不参加でも問題はないがな」
「普通は来るだろう、この連絡会には牽制の意味合いだってあるんだぞ」
張の言葉に、アブレーゴが首を横に振る。
この連絡会はこの街の安定化という意図の他に、自分たち以外の勢力が無闇に動かないよう牽制するという目的を持つ。それを守らず行動を起こしたヴェロッキオがどうなったのかを見れば、この連絡会の重要性が理解できるだろう。
しかしながらこの場にウェイバーは居ない。抑も彼以外に兵力が存在しないというのにそれを一勢力として見ていいのか甚だ疑問であるが、それに関しては全会一致で彼を一つの勢力と認識している。
「アイツにとっちゃ俺たちの動向なんてどうでもいいのさ。関係ないことは放っておく、邪魔立てすれば排除する。ただそれだけ、お前も分かってるだろう、アブレーゴ」
そう告げられたアブレーゴは、苦々しく舌打ちして。
「あの時のことを言ってんのか。確かにな、分かってるさ。何せ武器も持たねえ奴に、構成員五十人がやられちまったんだ」
「カルテルの程度が知れるわね」
「吐かせバラライカ。ウェイバーの異常性はお前もよく知ってるだろう」
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