006 四者四様デッドチェイス
「どうしたもんか」
「お前さんなら大手を振って堂々と出ていけるだろうが」
「いや死ぬからな。あの銃弾の中だぞ」
「吐かせ。バラライカの兵隊どもとやり合って無事だった奴がくたばるかよ」
流石というかなんというか、こんな状況だというのにバオは拳銃片手に煙草をふかし始めた。イエローフラッグが破壊された数は伊達じゃないということか。ベトナム戦争に従事していたらしいので、肝はそれなりにでかいのかもしれない。
斯く言う俺も懐から煙草を取り出して火を点ける。こんな状況であっても焦燥は何も生み出さない。必要なのは自然体でいることだ。肺に取り込んだ煙をゆっくりと吐き出し、ジャケットの内側に手を伸ばす。
途端、バオが目の色を変えた。
「オイオイ、まさか」
「やるしかないでしょ、気は進まんがね。射撃のセンスは壊滅的なんだ」
ホルスタに収められていた拳銃を、ゆっくりと引き抜く。
現れるのは、銀一色の拳銃。
スタームルガー・レッドホークのカスタム品。
スタームルガー・シルバーイーグル。通称ウェイバーモデル。
この拳銃は1979年にアメリカが生み出したダブルアクションのマグナムリボルバーだ。全長194ミリ、重量約1.5キロで、何年も前にバラライカに仲介してもらい腕利きの職人に作ってもらったものだ。
一般のレッドホークとは違い、銃身からグリップまで全て銀一色になっているのが特徴の一つで、グリップには俺を模したのだというバラライカ考案のシンボルが彫られている。因みに何を表しているのかは俺も知らない。聞いても教えてくれないのだ。
射撃の際にハンマーを起こさなくてはならないシングルアクションではなく、ハンマーが起きなくても引鉄を引く力でハンマーが連動し起きるダブルアクションのリボルバーで装弾数は六発。現在普及している他の拳銃には倍以上の装弾数を誇るものもあるが、リボルバーであれば極々一般的だと言えるだろう。
ここで俺がどうして自動式ではなく、回転式のリボルバーを使用しているのかの説明をしておこうと思う。
自動式拳銃は反動も少なく装弾数も多い。弾倉交換も簡単に行えるため素人にも扱いやすく、ロアナプラの住人の多くはこの自動式を携帯している。専用のロングマガジンを使えば装弾数は最大で三十三発にもなるというのだから連射にも向いているだろう。
それに比べ、リボルバーはその構造上どうしても装弾数が少なくなってしまう。しかも慣れていなければ再装填に時間がかかる。命のやり取りの最中でその時間は致命的だ。
だが何も悪いことばかりではない。
自動式に比べて単純な構造をしているが故に信頼性は高い。不発が起こっても引鉄を引くだけで次弾をすぐに装填することができるのだ。これは拳銃素人な俺にとってはとても有難いことだった。動作不良を起こしていて命を落としたなんて笑い話にもなりやしない。
と、言うのが一応の建前である。
如何にもなことを宣っているが実際のところは拳銃を選定する時点でそこまで深く考えていたわけではないのだ。何せこちとらロアナプラに来るまでは本物の銃器に触れたことなどなかったのだから、そんな詳細な情報を持っている訳が無い。
ではどうしてオートマチックではなくリボルバーなのか。
決まっている。リボルバーの方が格好良いからだ。男にそれ以上の理由は必要ない。見た目が格好良い、たったそれだけの理由で俺はリボルバーを選択したのである。
[9]前 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:3/7
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク