ハーメルン
悪徳の都に浸かる
009 第一の分岐点

 直後、連続した銃声が店内に反響する。頭上の酒瓶に当たったのか割れて落下してきた破片が頭部を直撃する。額にぬめりを感じるのも構わず、サハロフはメリッサの盾となるようにしながらじりじりとカウンターの中を移動する。

「ああ、ダメよ。逃げたりしてはいけないの」

 少女の銃撃は止まらない。
 店内に銃弾の嵐が降り注ぐ。
 BARを持つ少女を前に、戦斧を握る少年は微笑を浮かべたまま動かない。先程の言葉通り、サハロフを手にかけるのを少女に譲るつもりなのだろう。完全に舐められている、サハロフはカウンターの床を這うようにしながらそう思った。
 そして同時に思い至る。
 この店内にはもう一人、男が居なかっただろうか。
 カウンターに突っ伏して惰眠を貪る、あの男が。

(しまったっ!)

 咄嗟に身体を起こしてカウンターの様子を伺おうとするも、真横を銃弾が飛んでいったために慌てて上体を屈める。
 自身とメリッサ、そしてもう一人。ウェイバーがこの店内には残っていたのだ。突然の銃撃で、すっかりそのことが頭から抜け落ちてしまっていた。
 いくら百戦錬磨の彼とは言え、眠ったままの無防備な状態であの一斉掃射を回避できるわけがない。意識がないままに回避行動を取れる人間なんてのは聞いたことがない。
 少女のBARは、店内を隈無く蜂の巣にしていた。ということは、必然的に彼のいるカウンターも銃撃されている。
 黄金夜会に名を連ねる人間が、こうもあっさりと殺されてしまうのか。サハロフは奥歯を噛み締めた。
 しばらくして、銃声が途切れる。彼の動きは迅速だった。抱きかかえていたメリッサを店の奥へと避難させ、壁伝いに移動してなんとかカウンターの様子を視界に捉えられる位置に移動する。顔の前まで拳銃を持ち上げ、いつでも撃てる状態のまま、サハロフはゆっくりと顔を覗かせた。

 彼の視界に飛び込んできたのは、信じられないような光景だった。
 そして瞬時に理解する。少女の銃声が途切れたのは、弾切れを起こしたからではない。
 彼が、彼の存在が、その全てを物語っていた。

 辺り一面に銃痕が刻みつけられた店内で、ウェイバーは少女の真正面に立っていた。彼我の差は三メートル程。サハロフの視界からはウェイバーは背を向けているため、どんな表情をしているのかは分からない。
 ただ、彼の右手には特注のリボルバーが握られていた。シルバーイーグルだ。
 一体いつ眠りから目覚め、あの銃弾の嵐を回避したのかはサハロフには分からない。だがいかにウェイバーと言えど、余裕では無かった筈だ。その証拠に、彼のジャケットの至るところには銃弾が掠めた痕跡が見て取れた。 
 きっと少女の殺気に気が付き、紙一重で躱していたのだろう。相変わらずの危機察知能力だと舌を巻く。
 以前彼とやり合った時もそうだった。三百メートルも離れて狙撃銃を構える自身がその引鉄を引こうとした瞬間、彼はこちらを見て笑ってみせたのだ。どれほどの手練だろうと、三百メートル離れている人間の殺気など感じ取れるものではない。
 そんな常人離れしたウェイバーだからこそ、単独で黄金夜会に名を連ねているのだろうが。

 ウェイバーを前に、少女はBARを構えたまま微笑む。

「あらおじさん、私と踊ってくれるのかしら」

 彼は答えない。リボルバーを握ったまま、まっすぐに少女を見つめているようだ。

[9]前 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:2/8

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析