ハーメルン
ゾンビと女子高生の平凡な学園生活
第1話・転校生 #04

 カーテンの隙間から差し込んだ陽の光が、玲奈の顔をまぶしく照らしていた。右手で光を遮りながら上半身を起こす。窓際に置かれたベッドの上で眠っていたようだ。周囲を見回す。学校の教室ほどの広さの部屋だった。すぐそばにもう1台ベッドがあり、その上に玲奈のバッグが置かれていた。入口のそばにはパソコンや本などが置かれた事務机、その隣には、救急箱や、たくさんの薬品が入った棚がある。他にも、身長計や体重計、視力検査の時に使うCマークがたくさん並んだボードもあった。

 ……保健……室?

 玲奈の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。どう見ても保健室だが、なぜ自分がこんなところにいるのかが分からない。記憶を探ろうとして。

 ずっきーん!

 生理の時の何倍もの頭痛に襲われた。玲奈は思わず頭を押さえる。グルグルと包帯が巻かれてあった。あたし、怪我をしたの? 記憶がよみがえってくる。そうだ。あたし、家を出て、隣町に行こうとして、陽が暮れたからコンビニで一晩明かして、そして、朝、3人の女子高生がコンビニに侵入してきて……。

 そこからは、よく覚えていない。

 保健室には玲奈の他に誰もいなかった。ベッドを下り、廊下に出る。そこにも誰の姿もなかったが、2つとなりの教室から、ワイワイと騒がしげな声が聞こえてくる。誰かいるようだ。玲奈はその教室へ向かい、開けっ放しのドアからそっと中の様子を伺った。

 教室の中には、たくさんの生徒がいた。まだ授業が始まる前のようで、生徒たちは、お喋りしたり、スマホをいじったり、ファッション雑誌を見たり、勉強したり……は、1人しかしてないが、みんな、楽しそうに過ごしている。よく見る、休み時間の風景だ。

 ……はい? なんだコレ?

 玲奈の頭に、さらにクエスチョンマークが浮かぶ。
 学校でよく見る風景。どこの学校でもある日常。
 でも、それは、2ヶ月前に終わったはずだ。
 世界にゾンビが溢れるアウトブレイクが発生してからは、こんな光景は、もう無くなったはずだった。世界中のどこにも。
 それとも、この2ヶ月間の出来事は全部夢で、本当は何も起こってなかったのだろうか? 世界は今まで通り、普通に生活できているのだろうか?

 ――あれ? でも。

 教室の中を見回す。知らない生徒ばかりだ。どうやら、玲奈のクラスではないらしい。そもそも彼女たちが着ている制服は、聖園高校の制服ではなかった。

「あ――」女生徒の1人が、玲奈に気付いた。そして、他の生徒に向かって言う。「茉優(まゆ)先輩、架純(かすみ)先輩。あの娘、気が付いたみたいですよ?」そして、玲奈に近づいてくる。「どうぞどうぞ。遠慮しないで、中に入ってください。みんなに紹介しますから」

 聞き覚えのある声だった。確か、コンビニに侵入してきた3人の女子高生の1人。身長150センチくらいの小柄な女の娘で、肩の下まで伸びた長い髪を耳の後ろで2つに束ねている。いわゆる、カントリースタイルのツインテールだ。

 ツインテールの娘に背中を押され、玲奈は教室に入り、黒板の前に立たされた。教室内のざわめきが収まり、生徒全員の視線が玲奈に集まった。

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