騎士
深夜。臓硯に攫われたアイリスフィールを奪還するべく結託した、アサシン、綺礼、雁夜の3人はある場所から間桐邸を監視していた。
その場所とは――いつぞや、凛と士郎も身を隠した間桐邸前の裏路地である。
「――狭い」
思わずアサシンが小言を漏らす。
比較的小柄な凛と士郎でさえ狭いと感じた裏路地へ、今2メートルに届こうかという大男と危篤寸前の病人の3人で身を寄せ合っているのだ、当然だろう。
だが、そんなアサシンへ綺礼が真顔のまま注意する。
「静かにしろ、見つかるだろう」
「いや、そう言われてもな……」
綺礼の注意も最もだが、どう考えてもこの状況はおかしい。
しかし、文句を言うアサシンを、綺礼は鼻で嗤った。
「ふん、仕方があるまい。本来ならばお前が霊体化し、高台で監視をするのがベストだが……如何せんお前にそのような芸当はできまい」
「う……っ」
そう断言されてしまうと言葉に詰まる。確かに、霊体化できないのはアサシンの弱点だ。
――だが、それを踏まえてももっとやり方があったのではないか。少なくとも、大の男たちが3人揃って身を寄せ合う以外の……!
そんなアサシンの心中を察してか、癪に障る相手を小馬鹿にしたような調子で綺礼が釘を刺す。
「間桐臓硯の不在が確認できた所で侵入のタイミングを逃しては意味がない。臓硯の留守を確認ができ、かつ迅速に作戦を開始するのならば、この陣取りがベストだ。
安心しろ。位置は近いが、隠匿用の結界は万全だ。――どこかの誰かが声でも漏らさぬ限り、万に1つも見破られはすまい」
「いや、そっちの心配をしてるわけじゃないんだが……」
もっとこう……人間の尊厳的なものを失っているような気がした。
そもそも、その留守を狙う作戦自体、アサシンには疑問があった。
「なあ、本当に突撃は夜中なのか? 昼間の方が良いんじゃないか?」
あちらの世界で、臓硯の出鱈目さは身に染みている。やるならば、活動が活発になる夜よりも、動きの鈍い昼間の方が良い気がしたのだ。
しかし、アサシンのその意見には雁夜が抗議した。
「いや、あいつは日中屋敷に籠ってる。屋内には日光が届かないからな。――屋敷は奴の体内だ。サーヴァントのあんたはともかく、真っ当な魔術師じゃあ屋敷の中では逆立ちしたってあいつには勝てない。狙うならあいつが留守の時だ」
「なるほど」
勝てないならば、そもそも戦わない。格上を相手にするときの定石だ。
しかし、臓硯がいなくなってもバーサーカーが残っている可能性はある。その時のために、アサシンだけでも戦えるよう心の準備をしておく。
――と、そんなアサシンの横顔を雁夜は不思議そうに見つめていた。
「……なあ、君たちはどうしてそこまで――」
そう、雁夜が何かを尋ねようとしたその時、
「――無駄口はそこまでだ」
綺礼が強引に口を塞いだ。正面を見れば、今まさに臓硯が玄関前に姿を現した。
3人の空気が一気に張り詰める。
玄関へ鍵をかけ、普通の老人の様に家を後にする臓硯。しかし、霊視すればその背後にはバーサーカーを従えているのが分かった。
臓硯は念入りに屋敷へ鍵――結界を敷いたあと、坂道を登って行く。遠坂邸へ向かったのだろう。進行方向がこちらと反対なためか、まったくアサシンたちへ気づくそぶりは見せない。
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