ハーメルン
Fate/Zero ~Heavens Feel~
前夜

 衛宮切嗣は当惑していた。
 それは宿敵、言峰綺礼が同盟を求めてきたから――ではない。
 その問題は、つい先ほど解決した。
 ――当惑の原因は、切嗣の前には並んでいる数々の料理。
 1つはアサシンが作ったものだ。武家屋敷の雰囲気に合わせたのか、アインツベルン城の時とはうって変わった見事な和食。例えどんな料亭で出されても違和感のない、プロ顔負けの出来だった。
 ――ここまではいい。
 正直なことを言えば、豪華絢爛な食事はアインツベルンでの生活で食べ飽きており、切嗣としてはジャンクフードなどが好みなのだが、食事は食事だ文句は言わない。
 ――問題なのは、もう1品。
 和食の隣に置かれている、

 ――――――マグマの様に煮えたぎった麻婆豆腐である。

「……………………」

 赤黒く沸き立つその液体は、さながら地獄の窯そのもの。ラー油と唐辛子を100年間程度煮込み続ければ、ちょうどあんな泥が生まれるだろう。
 そんな開かれた地獄の蓋から、こちらへ言い様のないプレッシャーを放つ麻婆。
 あんなモノは人が食べられるモノではない。何としても無視を貫きたい所だが、そんな切嗣を包囲するように2人の男が目の前に立ちはだかっていた。
 
「――どうした、爺さん? 早く食べないとなくなるぞ?」

 男の片方、アサシンはそう切嗣へ生き生きとした笑顔を向け、

「――早くしろ、衛宮切嗣。折角お前のために、私まで要らぬ労を働いたのだ。さっさと食せ」

 と、もう片方の男、綺礼が悪魔の笑みを浮かべてる。
 その様相はさならが天使と悪魔。

「くっ――」

 八方塞がりの現状に切嗣は頭を抱える。
 ――どうしてこうなった……。
 そうして、現実逃避するように過去へ思いを馳せる。
 それが、いつぞやの宿敵とまったく同じ反応であることを切嗣は知らない……。 


 ――遡ること数時間前。

「――手を組まないか、衛宮切嗣」

「何?」

 玄関越しにそんな突拍子もない提案をしてきた宿敵へ、切嗣は眉をひそめていた。
 訝しむ切嗣に対し、綺礼は余裕の笑みを称えながら告げる。

「意外な話でもあるまい。我々は遠坂の悲願を阻止したい。お前は聖杯を奪還したい。利害は一致している」

 その以前アインツベルン城で見た、陰鬱とした綺礼とは真逆の態度に警戒心を強めつつも――提案自体は、悪くないと判断した。
 だまし討ちを疑いつつも、話を促す。

「……条件は?」

「小聖杯奪還の作戦立案、当日の段取り、すべてお前の判断に一任しよう。アーチャーが敗退するまで、我々はお前の指揮下に下る」

 つまり同盟ではなく、条件付きの休戦協定。更に休戦の間、完全に切嗣の手足として下につくということだ。条件としては破格。これ以上の好条件はないだろう。

「その後は?」

「無論敵同士だ。――最も、私も聖杯などには興味がない。お前が万に1つの可能性にかけ、聖杯を使おう、などという世迷言を発せぬ限り、争う必要などないだろうがな」

 その通りだった。実際、聖杯が使えないと分かった以上、切嗣が勝つことに意味はない。要は臓硯と時臣が勝利しなければいいのだ。
 完全に疑いが晴れたわけではないが、怪しい点はない。

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