ああっご主人様っ
無事に新年度を迎え、おれたちは中学三年生に進級し、姉さんは川神学園の一年生になった。
おれとワン子が朝の鍛錬を終え、朝食を済ませ、変わり映えのない制服に袖を通し、今日も今日とてつまらない――姉さんがいなくなってさらに退屈な――中学校に向かおうとしたとき、川神学園の制服に身を包んだ姉さんが襲来した。
「おニューの制服を纏った美少女登場! 愛しい弟に妹よ! 感想カモンッ!」
「わあ、とても似合ってるわ、お姉様!」
「初登校くらい着崩すのやめない? なんかレディースのヘッドみたい」
「ん~、ワン子~お前は本当にかわゆいな。千はあとで制裁だ」
計画通り――ワン子を愛でながらさらりと告げられた折檻宣言におれの身は歓喜に打ち震えた。
女子高生になった姉さんのお仕置きに胸を膨らませながら登校する。
……川神の春は払暁から黄昏まで美しいまま、夜を迎える。その中でも多馬川沿いの平地に広がる田園風景が、故郷を想起するので好きだった。
人口第九位の大都市なのに自然も豊かで、独自の生態系の動植物が繁殖しているのも着眼すべき点だろう。
武士の子孫が多く、その風習を受け継いでいるためか面白い風習も見られ、第二の故郷として愛着が湧くのも当然に思えた。
川神には郷土愛が強い若者が多いように見えるのは、おれが都会に人口が流出し続けている田舎生まれだからだろう。
まあ、面白いのは風土だけではなく人材の影響が強いのだが。
「学校までの移動中も特訓特訓! 夢に向かって勇往邁進っ!」
「鍛錬に集中し過ぎてコケたりすんなよー」
「あはは、昔ならともかく、今は平気よー!」
例えば、登校中に重しをつけて走り回っているブルマ姿の女子中学生とか。さっき大気を蹴って空を跳んで行ったあだ名が『武神』の女子高生とか。
世にも珍しい光景が広がるのが川神である。多馬大橋、通称変態の橋に行くともっと面白いものが見られるのだが、川神学園とはルートちがうので残念だ。
おれは変態(彼ら)が性癖を叫び、人々に退治される一連の流れが好きだった。まるで花火のように一生をかけて培った性癖が世に咲き、一瞬にして無常に散る様は、物語の英雄の最期を彷彿とさせて感動すら覚える。
変態にその性癖が芽生え、成熟し、内に留まらず曝け出してしまいたくなるまでに多事多難があったはずなのに、世間では異常性癖・マイノリティ・変質者の一言で済まされてしまう哀れさが堪らないのだ。
彼らに力があったら、きっと性癖も黙認されていただろうに……そう、それこそ齢百を超えて女学生のブルマとスク水姿を視姦するのが趣味のジジイのように地位と実力があれば、逮捕されることもなかったろうに……どうして……
「よっ! ほっ! はっ! とおっ! ……千ってば、難しい顔してどうしたの?」
「正義なき力は暴力であるが、愛なき力もまた暴力である。この場合の愛とは何か考えていたんだ。愛とは解釈によってはリビドーにもなるのではないだろうか? 世間では叩かれるようなものであっても、人生を捧げるほどに夢中になったものに対するそれは、他者にとっては異質であっても愛ではないのか? 形は違えども純真な感情で得た力も、世間は暴力と呼ぶのだろうか。そんなことを考えていたんだ」
「おおっ、なんだか哲学的だわ! やっぱり千くらい強くなると、単純な力だけじゃなくって、色々考えなきゃいけないのね」
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