人喰い狼。
私の問いかけたその質問を聞いて、彼は手に持っていた鶏肉をぱくりとたいらげた。
「食った」
その言葉の重さが最初は理解出来なかった。
そんな簡単に“食った”と言われてもその言葉の重大さがいまいち伝わらなかった。
けれどそれはじわじわと意味を成して私の心に届いた。
「え、な…何を言ってるの……」
祖母を食べた……
こんな普通の人間みたいな見た目をしている少年が、祖母を食べてしまったの?
そんな言葉、すぐ信じられるわけがない。
「だから、お前のばあさんは食った」
2度目の同じ言葉。
事実として上手く脳に伝わらなくて、未だに頭が混乱していた。
その細い身体の、細いお腹の中に、私の祖母は入っているというの?
そんなまさか、ありえない……
「し、信じられるわけないでしょ。そんなこと…」
口元が震える私をみて、彼は耳を立てて立ち上がる。
「じゃあ、お前も食べて証明してやろうか?」
冗談交じりの含み笑いを見せるが、冗談なんかに聞こえなかった。
彼なら本当に私を食べてしまう。
そのお腹の中に祖母がいるのなら、祖母より体の小さな私なんてすぐ食べられてしまう。
「け、結構です…!」
慌てて彼から距離を取って私は壁に背を預けた。
このまま立っているのはいつ足に力が入らなくなるかわからないからだ。
「早く……出て行ってください…」
このままここにいられたら、絶対いつか私を食べようとする。
そんなことになる前に、早くこの狼人間からは家を出ていってもらわなければならない。
まだ祖母のことだってちゃんと信じられていない。
これから祖母を探しに行かなきゃ。
森のあたりを探して、絶対祖母を見つけなきゃ。
いないと知られたら両親が悲しんでしまう。
そんなの、1番避けないといけない…
「…悪いけど、出て行く気無いから」
またサラッと口から出た言葉にしばらくフリーズした。
「何で…」
「ちょうど居場所を無くしたところだった。この家がちょうど良かったから住んでたあのおばさん食って、もう住み着くつもりだから」
一方的に話を進ませて、彼は私の方を見る。
「あいつ、お前のおばさんなの?」
無視すると何をされるか分からなかったので、一応小さく頷いた。
「…お前も、嫌なおばさんもったよな」
心の中を読まれたようで、一瞬ドキドキしていた。
「なーんか顔見てわかった。話し方とか目付きとか。感じ悪くて不快だった。俺が襲おうとした時も“私じゃなくてこれから来る小さな女の子を食べてください”なんて言うんだぜ?」
「…っ!」
その言葉に、自分の心が傷ついたのがわかった。
おばあちゃんは、私を代わりに食べさせるつもりだったんだ…
自分が助かるために、私を身代わりに…
胸の前でぎゅっと拳を握る。
悲しい、心が痛い。
祖母が食べられてしまったことに悲しんでいたのに、祖母は……
「…だから食った。文句ある?」
自分のしていることが正しいと胸を張っているかのように彼は無表情のまま言った。
抑揚のない喋り方。
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