第17話 魔剣の勇者vs首無し騎士
ミツルギキョウヤと名乗り、見事な土下座を決めた青年はあなたにグラムを失った経緯を説明した。
自身に力を授けてくれた女神アクアが檻の中に閉じ込められていて、犯人の冒険者の少年に喧嘩を売ったことや少年と女神アクアをめぐって決闘したがグラムを奪われて敗北したことなど。
話を聞いてあなたは知らないとはいえ随分と余計なことをしたものだ、と思った。
女神アクアは地上で冒険者生活を満喫中なのだ。
彼のような敬虔な使徒が直接手を出しては何のためにアクシズ教徒が遠巻きから見守っているのか分からなくなってしまう。
しかし自身の信仰する女神が檻に閉じ込められていたのなら助け出そうとするのも無理は無い。
今は若干煤けているが、キョウヤはいかにも正義感の強そうな青年だ。
自身を女神アクアに選ばれた勇者と言っていたし、きっと魔王から世界を救うという使命感にも溢れているのだろう。
ノースティリスにも彼のような者はたまにいた。
彼らは皆己の力に絶対の自信を持っていて、その瞳は未来への希望やネフィアの謎を解き明かすのだという使命感に溢れていた。
かくいうあなたにも自分ならきっと上手くやれる、なんて根拠の無い自信に溢れていた時期があったのだ。
最初の依頼でスライムに全身を溶かされたときに存分に身の程を思い知らされたわけだが。
今となっては酒の肴にする程度の他愛ない話である。
そんなあなたの中で最も記憶に残っている者は、何を勘違いしたのかあなたに首を紐で縛ったペットの妹を解放しろと迫ってきた年若い少年だ。
剣を抜いて喧嘩を売ってきたので少年を敵と判断した妹本人の手によって四肢を断ちて五臓六腑を七砕せんとばかりにズタズタのギチョギチョに惨殺されたわけだが、それ以後は姿を見なくなった。
盗賊ギルドに喧嘩を売って身包み剥がされた挙句サンドバッグの刑に処されたと風の噂で聞いたが、彼はどうなったのだろう。
「あの……どうしました?」
青年の声に我に返る。ここはノースティリスではなくアクセルの街にあるあなたの家だ。
どうやらあなたは望郷の念に駆られていたようだ。らしくもないと苦笑する。
「ま、まさか……グラムは既にどこかに売ってしまったとか……?」
青い顔になったキョウヤの言を否定する。
どれだけ劣化していようとも貴重な神器を売り払うなどあなたからしてみれば到底有り得ない。
「良かった……お金は幾らでも払います。ですからどうかグラムを……」
しかし彼は何を言っているのだろう。あなたは呆れたように鼻を鳴らした。
もしかしてキョウヤは自分を馬鹿にしているのか、あるいは救いようの無い馬鹿だと思われているのか。
元所有者とはいえ、女神から賜った神器を金銭と引き換えに返してほしいなど馬鹿げた提案にも程がある。
金銭に困っていない蒐集家に金など幾ら積んでも無駄である。
あなたがグラムの返品に応じる際に要求するものはただ一つ。
それはあなたにとってグラムに匹敵、あるいはグラムよりも価値のある神器だけだ。
「そんな……! あれはアクア様に頂いた本当に特別な武器なんですよ!?」
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/10
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク