第3話 宝島と極貧リッチー
あなたが異世界の冒険者となって、早くも二ヶ月が経った。
討伐、料理、他の街への配達、行商の護衛、外壁の拡張工事と様々な依頼をこなし続けているあなたは、今ではアクセル有数の魔法戦士として名を馳せている。
早くもギルド職員からはアクセルのエース、みたいな目で見られ始めているが、他の冒険者にお前なんでこの町にいるの? みたいなことは言われなかった。
どうにも終始ソロで活動しているので、寂しい奴だと思われている節がある。
そうして依頼を受け続ける日々を送っていると、ある日突然に条件を満たしたらしく、魔法戦士の上級職であるエレメンタルナイトになった。
ただレベルもステータスも、あなたの目には変化していない。
相変わらずバグったままだ。壁を越えた感触も無い。
スキルのポイントも読めなかったが、こちらに関しては文字が変化したし、実際にスキルを習得できた。
今は《zえろ》の文字が刻まれている。1ポイントのスキルを選んだが何も取得できなかったのでゼロなのだろう。
さて、肝心のスキルについてだがあなたは片手剣スキル、両手剣スキル、盾スキル、魔法スキルといったように、魔法戦士として活動するのに対外的に都合がいいと思われるものを一通り揃えた。
その中でも特筆すべきもの。それは初級魔法スキルとテレポートだろう。
初級魔法スキルは殺傷力皆無の火、水、土、風属性の魔法が使えるようになるものだ。
あなたはそれをクリエイトウォーターのためだけに習得した。
言ってしまえば、ただの綺麗な水を出すだけの魔法である。
しかしノースティリスで消毒せずに飲めるような綺麗な水は、迷宮の中で拾うか雪国の特定の井戸で汲むなど、入手する機会が非常に限られている。
それが魔力を使うだけで、文字通り湯水の如く手に入るのだ。
初級魔法スキルを覚えたままノースティリスに戻れれば、暮らしが楽になること請け合いである。
テレポートの魔法はノースティリスにも存在するが、あちらは数十メートル以内にランダムで転移するものだ。主に敵に囲まれたときに一時離脱するために使う。
こちらのテレポートは登録した場所に転移するというもので、自宅や“ある場所の自身が到達した最下層”などの特定の拠点に戻る《帰還の魔法》に近い性質を持っている。
場所に登録が可能で上書きが可能。これまた非常に利便性が高く幾らでも悪用できそうなのだが、比例して取得コストが非常に重い。
あなたは最初からこのスキルを狙っていたのだが、初期ポイントのあまりと二か月分の戦果のほぼ全てを注ぎ込むことになった。
成長速度も、他と比べて圧倒的に遅いらしい。
聞けば初級魔法はこの世界の冒険者にとって重要視されていないらしく、殆どの者は最初に中級魔法を習得するのだとか。
あなたは一応中級魔法も覚えているが、覚えてしまえば魔力を消費するだけで何回でも使えるこの世界の魔法は信じられないほど画期的だ。
使用回数に応じて熟練度が伸びて威力や精度が上昇するのは同じだが、魔法書を買い漁ってストックを増やす必要がないだけで、こんなに便利にもなるとは知らなかった。
今のところ、威力は長年使い込んできたノースティリスのそれに遠く及ばないが、差し引いても夢のような魔法と呼べるだろう。
■
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/8
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク