ハーメルン
来禅高校のとある女子高生の日記
京乃クッキング

 何か臭いし、心なしか鼻につんとくる臭いもしてくる。

 明らかに発生源はリビングだ。

 そのことに少し怯みながらも琴里は歩みを進める。
 無論、先程までの弾んだ足取りではなく、得体のしれないものに挑む小動物のようにビクビクとしながらではあるが。

「な、なに……これ!」

 こういう時は勢いだとばかりにバーン! と扉を開けると、先程までとは比べ物にならない異臭が鼻に入ってくる。
 臭いの濃い色々な料理が置いてある部屋は、むせてしまうくらいで、急いでリビング中の窓を開けて換気をする。
 すぐに無くなる臭いでもないかもしれないが、まあしないよりかはマシだろう。

「本当、なんだっていうのよ……」

 ぶつくさと呟きながら部屋を見渡すと、そこにはぐったりとしている士道の姿があった。

「琴里……おかえり……」
「え、ええ……ただいま。その、状況が掴めないのだけど、これはどういうことかしら?」
「換気ありがとな……助かった……!」
「士道……説明しなさい、いったい何が……」

 と、そこまで言ったところで台所から誰かが出てきて琴里に声をかけた。

「あ、琴里……ちゃん? 
 ……はっ! 私は怪しいものではありませんよ!? 
 五河君のクラスメイトをさせてもらっている観月京乃ともうひます!」
「……」

 琴里は京乃を目に捉えると、無言で黒いリボンを解いて瞬時に白いリボンに付け替えた。

「京乃おねーちゃん! 
 どうしたのこんなところで!」
「え? ……あ、いや……その、五河君にお料理の教えを請うていたところで……」
「料理の、教えかー」

 琴里はちらりと何かを作ったと思われる残骸に目をむける。
 いったい士道は京乃に何を教えたというのか。

 ジトーっとした目で士道を見つめると、士道はあからさまに慌てる。

「ち、違うんだ琴里!!」
「おにーちゃん、何が違うの?」

 可愛らしくキョトンとしているのに、あん? とでも言いそうな威圧感がある。
 それを見た京乃は何かに気がついたようにハッとした。

「……はっ、もしかして私、兄妹で団欒(だんらん)するチャンスを邪魔してしまっているのでしょうか? 
 も、申し訳ございません! すすすす、直ぐに出ていきます!」
「待て観月出ていくな! 話をややこしくさせるな!!」
「ひゃい! どうもすみません!!」

 それを見ていた琴里は納得したように呟いて、廊下の扉へと向かう。

「あー、私邪魔っぽいし、友達のところに遊びに行ってくるねー」
「待つんだ琴里ぃ!」
「ばいばーい、おにいちゃん」

 士道の制止も虚しく、琴里は家から出ていった。
 その後には、誤解だ……俺がダークマターの作り方を教えた訳じゃないんだ……と嘆く士道と、それを不思議そうに眺める京乃の姿があったという。

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