京乃チェンジ(上)
静まり返っている部屋の中に京乃と士道がいた。
互いに恥ずかしそうに、それでいて目を奪われているかのように見つあっていて、2人の間には邪魔することの出来ない空気が漂っている。
しかし、士道が顔を真っ赤に染めて、京乃に送っていた視線をふと下に逸らしたことによってそれは途切れた。
そして士道は頭を上げて、何かを決心したかのような、真剣な顔で京乃を見つめる。
「俺、実はずっと前から京乃のことが好きだったんだ。京乃のことは絶対に幸せにしてみせるから……俺と付き合って欲しい」
そんな士道に対して京乃は嬉しそうに笑って……
「……今の凄い良かったよ! 凄い五河君ぽかった! 本当私のわがままに付き合ってくれてありがとうね、七罪!」
興奮気味になりながら士道に化けていた少女……七罪に話しかけた京乃。
そんな京乃を若干引きながら見つめ、七罪と呼ばれた少女は自分の姿を士道のものから元の少女のものへと変えた。
「それは別にいいんだけど……」
七罪はそう言って京乃を半眼で見つめた。
「やっちゃった私が言うのも何だけど、何よあのコッテコテな告白シーンは」
「いや、あんな感じで五河君に告白されたなら、凄い嬉しいなって。もう、あれだね。喜んで火の中に飛びたくなるくらい嬉しい」
「いや火の中に飛び込んだら死ぬでしょ」
七罪は呆れたように呟いたが、京乃はたははと笑うだけだった。
今二人がいるところは京乃の部屋だ。
今日は七罪が遊びに来たので、京乃は思い切って頼みごとをしてみたのだ。
まあ、その頼みごとというのは“五河君の姿になって告白して欲しい”という、京乃にとってはとても重要な、七罪にとっては凄くどうでもいいことなのだが。
「それにしても会うの久しぶりだね」
「……そうね。本当久しぶりな気がする」
そう言いながら京乃のベッドにあるクマの抱き枕に抱きついて我が家のようにゴロゴロと寛いでいる七罪。
そんな七罪を尻目に、京乃はお菓子とお茶を机に置いている。
そのことに気が付いた七罪は、京乃に食べてもいいか聞いてから、ポテチを1つ口に入れた。
「……うめえ」
「うん、そうだね」
そう言って、京乃も口に1つ入れる。
それを片目に、七罪はどうしてこんなことになったのだろうかと、昔に思いを馳せた━━
ハロウィン。
それはケルト人が起源とされる、秋の収穫を祝ったり、害悪な魔女、悪霊を追い出す為に行うお祭り。
魔女や悪魔なんかに仮装した子供が近くの家に行き、トリック・オア・トリート! と言って家の人からお菓子を貰うというのは、日本にいる人なら誰もが知っているだろう。
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