ハーメルン
来禅高校のとある女子高生の日記
京乃チェンジ(上)


 まあそうなのだが、それくらいなら日本の文化についてひと通りの知識を仕入れた七罪にだってそれくらいは分かっているのだが……

「人、多い……」

 あまりの人の多さに疲れて、七罪はため息を吐いた。
 いくら精霊といえども、気分的な問題はどうすることも出来ない。

 町外れにある長い間使われていない遊園地にある長椅子に倒れ込むように座った七罪。

「あの、大丈夫ですか?」

 そんな七罪のもとに届いたのは、鈴を転がしたような綺麗な声音だった。
 ……しかし、その声に騙されてはいけない。
 どうせこの声の持ち主は、ぼっちの同級生が便所飯しているのを見て表向きは心配そうな顔をしていても、心の中では嘲笑(あざわら)っているような人物なのだろうから。

 そんなことを考えていつも通りに不機嫌になりながらその声がした方に顔を向けると、そこには七罪の安否を気遣っているように見える顔をした少女の姿があった。
 ……美少女かよ。

 ぼそっと七罪は呟くが、少女の耳には届かなかったらしく、困ったように首を傾げた。

 優しそうな顔の裏は、どうせ汚い感情が渦巻いているのだろう。
 何? その気弱そうな顔でいつも男を誘ってんの? ビッチかよ。
 そんな女と一緒にいるなんて冗談じゃない。

 いつも通りの思考回路。
 そんなマイナスの感情に囚われている自分に嫌気が差しながら、七罪はその場から去ろうとする。

「だ、大丈夫……」

 椅子から腰を上げて何処かへと歩こうとしたが、突然立ったことで立ちくらみを起き、思わずしゃがみこんだ。

「いや、全然大丈夫じゃないですよね。待っててください、ちょっとお水買ってきます」

 焦ったようにそう言い何処かへと行って数分、彼女は駆け足で帰ってきた。

「はい、お水」
「……」

 突然目の前に差し出されたそれを、反射的で受け取ってしまった。
 顔を上げると、にこにこと笑っている少女の姿が。
 ……負けたような気がしてペットボトルの中身を一気に飲み干すと、冷たいそれが体全体にまで染み渡るような感じがして、さっきまでの気持ち悪さが少し軽減されたような気がする。

「……ありがと」
「いえいえ」

 あなたの調子が少しでも良くなる手助け出来て良かったよ。
 そう恥ずかしげもなく言う少女を見て、七罪は眉をひそめる。
 ……いったい何が目的なのか。
 普通に考えて、こんなブスである私なんて助ける理由がない。

「……で、何が目的なの……?」
「何がですか? 困っている人がいたら、助けるのが当然じゃないですか」

 反吐が出るような言葉の羅列に、七罪は少女を睨みつける。
 当然? それが当然だったら、私を存在しないかのように無視したこの世界の住人は何だっていうのか。
 少女は七罪の視線に困ったように笑った後、口を開いた。

「何か理由がないといけないのかな? それなら……君に興味があるから、かな」
「まさか、あんた……あいつ等なの!?」

 ASTと呼ばれている奴等なのか。
 愕然としながら少女を見つめると、彼女は困ったような顔をしていた。

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