ハーメルン
来禅高校のとある女子高生の日記
京乃チェンジ(下)

 七罪が京乃の姿に変身すると言ってから幾分か経った休日のその日。
 七罪は約束していた通りに京乃の家で落ち合い、外から見えないようにカーテンを完全に締め切った部屋の中で天使を顕現させようとした。

贋造魔女(ハニエル)

 ぼそりと呟き、左手を天に掲げてから振り下ろすと、柄の部分に小さな鏡の付いたほうきの形をした天使が顕れた。その瞬間、部屋の中いっぱいに光が広がり、光が収まったその後、目の前にいる京乃と寸分違わぬ姿となった七罪がいた。

「う、うわぁ、私がもう一人いるよ……」
「な、なによ」
「い、いやぁ、改めて自分の顔を見るとどうにも……」

 曖昧にそう言って七罪から目を逸らす京乃。
 そこで七罪は、京乃は自己嫌悪が酷いということを思い出した。
 最近はまだマシになったほうだとは思うが、前までは鬱陶しいほどに酷かった。
 そんなことを考えている七罪。それらがすべてブーメランだと言うことには全く気がつかない。

「じゃあ、私は用事をすませてくるから……」
「あ、そういえば用事ってなに?」
「……」

 七罪は京乃の言葉を聞いて黙りこくる。
 そういえば用事の内容について話していなかった。
 このままでは明日から情報の齟齬(そご)があるかもしれないし、話しておくべきか。

「……ああ、どうせだから京乃のお熱な五河士道ってやつに会おうと思って……」
「五河君!?」

 京乃に化けた状態の七罪の肩を掴む京乃。
 とてもカオスである。

「ど、どうして私の姿で会うの……!?」
「だ、だって私が京乃になり変わったら、一から関係をつくるなんて面倒くさいことをしなくてもいいから」  

 もっともらしい理由を並べておく。
 本当の理由は京乃の一緒にいるときの士道の様子を知りたかったからだが、そんなことを京乃に言ったところで、面倒事になるのが目に見えて分かるので言わないでおいた。

「それで、許可してくれる訳?」
「……そ、それで七罪の役に立てるならいいよ、許可します!」

 ビシッと目を瞑って右手を上げたそう言った京乃を見て、七罪は手をひらひらと揺らしながら口を開く。

「じゃあ行ってくる」
「うん、行ってらっしゃい。終わったら今日のことについて教えてね」
「分かった分かった」

 今後辻褄(つじつま)が合わなくなると京乃としても困るだろうし、もとより今日起こった内容を伝えようと思っていた七罪は京乃の言葉に頷いて、彼女から家の鍵を受け取って京乃の部屋、そして京乃の家から出ていった。
 あとは士道の家に行くだけだし、それも隣だと言うことで1分もかからずにつくことが出来た。

「観月?」

 五河と書かれている表札を見て場所が間違っていないことを確認して、インターホンを押そうとしたときにかけられた言葉。少し驚きながら後ろへ振り向くと、そこには青い髪が特徴的な、京乃の同年代に見える少年が買い物袋をぶら下げて立っていた。

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