京乃チェンジ(下)
買い物袋の中身は菓子類だろうか?
袋の中にカップ麺や野菜や肉だとかの昼飯となるようなものは入っていないように見えた。
この人物は誰か。
何度も見た容姿の特徴とこの家に入ろうしているように見えることから少年の名前に当たりがついている七罪は、思いきって声に出すことにした。
「……五河、君……?」
「今日は料理するって聞いてないけど、どうかしたか?」
どうやら当たっていたらしい。
こいつが噂の五河士道かと、七罪は怪しく思われない程度にチラチラと士道を見つめる。
中性的な顔つきではあるが、イケメンという訳ではない。
……京乃からしきりに五河君天使! と言われるが、七罪には、その理由が実際に見てみても分からなかった。
「そ、その……、そうなんですが……い、五河君の手料理が食べたくなってしまって……お、お金なら払いますので!」
「い、いや気にしなくていいから」
慌てた様子で気にしなくていいと言ってきた士道を見て、七罪は心の中でしめたとほくそ笑む。
どうだ、私が京乃だと完全に思っているだろう。
それはそうだ。
七罪とそこまで関わりのない人物でも、人となりを見ればその人の知り合いに見られてもバレない自信があるし、その上に静粛現界するたびにあっているような気がする京乃は違う。七罪には、姿勢、呼吸の間隔、日々のふとした仕草などすらも間違えない自信がある。
それに京乃の士道への態度に関していえば、この前の謎の告白シーンよりも前から何回も同じようなことをしている。
あれでなんとなく予想がつくというものだ。
つまり七罪にとって京乃になりきるのは朝飯前だったりする。
「ほ、んとう……ですか……?」
ちらりと上目使いを忘れずに送る。
涙目のコンボも忘れずに入れることでより京乃らしくなり、我ながら会心の出来だなと自画自賛しておく。
ポカンと見つめてくる五河士道の顔は滑稽で、思わず笑いそうになったが今の状況で笑っては不自然極まりないから何とか耐えて、表面上はいつも通りの京乃を演じる。
幸いにも誰かの真似をするということは七罪にとって得意分野なのだ。
真剣にやればバレるなんてことはまず起こらない。
「五河君、どうかしました?」
「えっ……ああいや、何でもないぞ」
何でもないと言っている割には煮え切らない様子の士道だが、すぐにいつもと同じ調子に戻った。
「それじゃ、家入ってくれ。ちょうど昼飯を食べようとしていたところなんだ」
「そうなんですか……?」
不安そうな顔で士道の言葉に相槌を打ってから七罪は思考する。
そういえば京乃に士道の料理美味しすぎる、とも言われたような気もする。
天使だとかなんとか言っていた癖に平凡だった顔のこともあるし京乃による過大評価ということも多分にありえるだろうが、まあ今はお腹が空いているし食べられれば何でもいい。……ああ、違うな。京乃のご飯よりも美味ければ何でもいい。
七罪は何ヶ月か前に京乃の作った物体を食べたことがあったが、なぜそうなるのか分からないくらいに真っ黒な……有り体に言えば炭のようなものが出てきたのだ。
流石にアレはもう食べたくない。
「あ、十香もいるが大丈夫か?」
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