京乃チェンジ(下)
「そういえば京乃、料理をその五河士道とやらから教えて貰ってるって言ってたよね」
「うん、そうだよ」
「どうしてそんなことになったの? 京乃って人との距離詰められなそうだし不思議なんだけど」
「あ、それはね……ちょ、ちょっと待って」
慌てたように学生鞄の中からノートを取り出した京乃。
とは言ってもそれは授業用に使うようなものではなく、和紙のような材質で出来ている可愛らしい桜色の表紙が特徴的な、授業用のものよりも小さめのサイズノートなのだが。
「へぇー、京乃のメモ帳?」
「メモ帳というか、なんというか……」
歯切れの悪く言う京乃だが、それはいつものことだと深く考えずに切り捨てた七罪は、その言葉に適当に相槌を打って、京乃がノートのページをぱらぱらと開きながら話している内容を聞く。
「前に四糸乃ちゃんと五河の家に来たときに、たまたま料理作るの手伝うかとか、そんな話になったんだよね」
「へぇ、そう」
七罪がそう返事を返した後に目的のページを見つけたのか、京乃はノートに目を落としながら合ってるみたいだねと呟き、それを見た七罪は不思議そうに小首をかしげた。
「……覚えてるならノート開く必要なくない?」
「も、もしかしたら記憶と食い違いがあるかもしれないし、確認しないと」
「あっそう」
本人がそういうのであれば七罪として深く突っ込む気もないし、面倒くさいことをするもんだと思いながらもそれを口に出すことなく、いそいそとノートをしまう京乃を見つめる。
「まあ、とにかくそんなことがあったのね。良かったわね、願ったりかなったりじゃない。恨めしい程に……」
「うん、本当に嬉しい。でも、こうなれたのは七罪の協力があったからだよ。本当にありがとう」
──七罪が協力してくれなかったら、きっと私は士道くんに話しかけることすら出来なかったから。
一点の曇りもない満面の笑顔を向けられ、面と向かってお礼を告げれた七罪は顔を真っ赤に染めて京乃から目を逸らした。
「べ、別にあんたの恋路を応援したいからって訳じゃないし。ただの暇つぶしよ、あんなの」
「でもその暇つぶしで助かったっていうのは事実だから。本当、ありがとうね」
「……私が、誰かの役に」
「うん? 七罪何か言った?」
「な、何でも無い!」
また顔を真っ赤に染めてぶんぶんと首を横に振った七罪を見て、京乃はくすりと微笑んだ。
今日も観月家は平和だ。
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