狂三キラー 二日目
「そうですか」
何かしらあるのならば教えてもらいたいものだが、先程の折紙のこともあるし、無理に聞き出すのは良くないだろう。
それに……狂三からのお話というのが怖いから、と言うのもある。
どこか鬱々としてきた気持ちを変える為に、そして狂三の視線からひとまず逃げる為に京乃が席から立ち上がると、狂三に首をかしげられる。
「あら、予鈴が近いですが、どちらに行かれますの?」
「……お手洗いに」
「あら、そうでしたの。こんなことをお聞きしてしまって……」
「いえ、お気になさらず」
狂三の言葉に首を横に振って、足早に教室を後にする。
廊下に出た後に、目的もなく教室を出てしまったことを思い出した。
とりあえず顔でも洗おうと思った時、曲がり角から現れた人物を見て、京乃は胸が跳ねるような高鳴りを感じた。
五河士道。
京乃の最愛の人。
ただ……彼の纏う雰囲気は、何故か先程までと違うように感じられた。
「……あの、五河君」
「な、何だ? ……って観月か」
誰かに呼び止められるとは思わなかったからか、士道は困惑したような調子で言葉に応じた。
「どうか、なされたんですか? 少し顔色が悪いですよ?」
「何でもない……何でもないんだ」
士道は、真剣な顔で前を見据えていた。
「もうそろそろ授業始まるし、また後でな」
「……はい、また後で」
京乃は、彼の姿が見えなくなるまで見送った。
そして火照った顔を冷やす為にトイレ前まで行き、水道の水を掬って顔中を濡らすと、ぽたりぽたりと、水滴が落ちていった。
士道は何かを目標として歩んでいるような気がする。
それに比べて、自分は何なのだろうかと京乃は思案する。
京乃は彼の、士道のことが大好きだ。
だから彼が幸せでいられるように、見守っていたい。
でも、それ以外は自分がしたいこともしなければならないことも何も思いつかない。
まるで自分だけ時が止まってしまったのではないかと、そんな風に思えてしまう。
自分一人だけが、全く変わっていないような感覚。
そういえば、昔もそんなものを感じていたような気がする。
「……」
でも、それでいいのかもしれない。
自分が他にしたいことなんて言うのは、時が経てば自然と分かってくるだろう。
だから、それまでは……あの優しい少年の行く末を見守り、必要とあらば手助けしていたいと、京乃はそう思うのだ。
スカートのポケットから白いレースのハンカチを取り出して顔を拭っていると、授業開始を示す鐘が鳴り出した。
それを聞いた京乃は慌てて教室へと向かうこととなり、改めて決意表明をした割には少し締まらない形となってしまった。
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