ポテト考察
霧島診療所前。
今日も彼はロクに働きもせず遊びほうけている。
「国崎君、またポテトで遊んでいるのかね」
「ああ」
国崎君はポテトを空に三メートルほど放り上げ、キャッチする。
そして、ドリブルをし始めた。
「三井君を目指す」
「だったら私は白髪鬼にでもなろうか?」
「結構だ。赤髪鬼だけでもうんざりしてるところだ」
冗談を交えつつ、今更な事を思考する。
何故ポテトはバスケットボールのように弾むのだろう。
毛皮だろうか。
あの毛皮は、弾力性にそれほど富むのだろうか。
ポテトの考察――昔はよくやったが、解剖しようとすると佳乃が止めるので断念した。
「国崎君、ポテトとは一体何だろう?」
「いきなり唐突な質問だな。しかも難しい」
スリーポイントシュート。
先生、バスケがしたいです、とばかりにそれは綺麗な放物線を描いて宙に舞う。
「あ」
空中ノーガード状態のポテトを、大きな鳥がさらっていった。
「……トンビだな、あれは」
……トンビはアレを喰えるつもりで居るのだろうか?
あっ、という間に飛び去り、後にはもうお空で点のようになった鳥と。
「ぴこー」
という悲鳴が残るのみだ。
「まあいいか」
「まあいいだろう」
たいした問題でもないので、無視する。
「で、話の続きだが、ポテトの事だ」
「続けるのかよ」
国崎君はとても嫌そうな顔をした。
だが、ここは診療所前を提供しているパトロンの強みで話を続ける。
「あれだ。クマムシの仲間じゃなかろうか」
「クマムシって?」
「無知な君のためにわかりやすく説明すると……こういう生物だ」
クマムシ(緩歩動物)
水がなくても120年も生き、摂氏150度、マイナス200度のもとに数分間置いておいても
真空に近い状態でも、強い放射線を当てても死なない生物。
「……」
「どうだろう? ちなみに卵形に身体を縮小させる事でクリプトビオシスという仮死・休眠状態になり、ほとんど不死身に近くなる」
「いや、お前はポテトを何だと思ってるんだ?」
「……?」
国崎君の声に一寸頭を回転させ、ポテトとは何か、にもう一度思考を巡らす。
「……ポテトはポテトだ」
「……そうだな」
何だか要領のえない会話をしつつ、私は考える。
「つまり、君はポテトはポテトという唯一の生物であると考えるのか?」
「いや、俺が言いたいのは……そうだな、そうなのかもしれない」
何かを諦めたように頭を振って、国崎君は私に目線をくれる。
「ポテトは……ポテトなんだ」
その何か哀感すら込めた声に、私は共感をよせる。
「ポテトは、ポテトか。ふふ……まさか君に教えられるとは」
私は人差し指を唇に乗せ、空を見て思った。
まだ、学問の道は深いと。
おまけ
「うにー、みなぎー、あの二人のいってること、よくわかんないよー」
「……そう、そうだったんですね」
美凪は横の電柱に手をつき、崩れるようにして身を預けた。
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