+1days AM0:20 『魔人接触』
夜の冬木を一台の乗用車が駆け抜ける。
メルセデス・ベンツェ『ウィドーメイカー』。ドイツが誇るベンツェ社が造ったモンスターマシンであり、その最高速度は260km/h。スピード狂垂涎の品だが、現在その鉄の弾丸マシンを操るのは銀髪の人妻、アイリスフィールである。
現在時速は100キロ。道交法に真っ向から喧嘩を売るその運転に助手席に座るセイバーは顔面を蒼白にしていた。
「ア、アア、アイリスフィール!? 貴方、今対向車線を走っていませんでしたか!?」
「対向車線? 良く分かんないけど多分大丈夫よセイバー、何かあっても切嗣がどうにかしてくれるわ」
「漸く立ち直った切嗣にトドメを刺すつもりですか!?」
故障した挙げ句セイバーに泣きついた切嗣。正気には比較的早く戻ったものの先程まで羞恥心に悶えていたのだ。
セイバーも幾ら気にくわないマスターとは言え、精神的に追い詰められた人間に追い討ちを掛ける程に落ちぶれてはいない。
……それにまぁ、あの状況で切嗣が一番始めに頼ったのがアイリスフィールでも久宇舞弥でもなく自分である。というのが少し嬉しかったりもするので、セイバーは切嗣に関して少しだけ歩み寄っても良いのではないかと思い始めているのだ。
「……随分と達者な運転ですが、運転手を雇っても良かったのでは?」
「駄目よ!! そんなの私が楽しくないじゃな……、じゃなくて、危険じゃない。巻き添えは出したくないでしょ?」
ある意味素直なアイリスフィールの発言に、「せめてもう少し速度を落とせ」と言おうとしたセイバーを猛烈な寒気が襲う。
「止まって!!」
直感スキル。
その発動を感知した後のセイバーは流石の反射神経でハンドルとブレーキを巧みに捌き、前方の人影にぶつかる寸前でその車体を停止させる事に成功した。
急停止の衝撃に思わずつんのめりそうになるが何とか持ちこたえ、影の主を改めて視認したセイバーは、その人物が人間でないことに気付いた。
「……アイリスフィール、どうやら相手はサーヴァントのようです。私の後に続いて車外に出て下さい。なるべく側を離れないように」
サーヴァント相手に車内は決して安全地帯たり得ない。
つい先ほどアインツベルンの城から出てこの車を取りにホテルへと向かったのだが、その移動を監視されていたのだろうか。道を張り込む知恵といい、アサシンを彷彿とさせるが、異常な性能のバーサーカーに対する情報共有のついでに切嗣から受け取った情報によれば今の所発見したアサシンは全て「褐色の肌に髑髏の面」という特徴を持っているらしい。
そのどちらか一方にも当てはまらないとなれば、このサーヴァントのクラスは一つに絞られる。
「……キャスター」
異様な威圧感をもつ巨大な体躯と魚と人のキメラのような風貌。その顔に戦いに赴いたとは到底思えぬ満面の笑みを浮かべたキャスターはセイバーに向かって恭しく頭を垂れる。
「お迎えに上がりました、聖処女よ」
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